第26章 片翼の鳥(2)
東京滞在の初日は、移動とミーティングがすべてだ。
白鳥沢が毎年お世話になっているホテルへ直行し、与えられた部屋割りに従って各自荷物を置く。
その後、間髪置かず借りている会議室へ集合、対戦が予定されている相手校の試合映像を観ながら注意点、戦略の確認を行った。
明けて1月4日、俺たちはまずは開会式に出るために会場へ。
「…寒いー!」
会場である東京体育館の最寄駅から一歩外へ出た瞬間、身を縮こまらせて天童が声を上げる。
「寒い寒い寒い寒い!」
慣れている俺たちはさほど気にしなかったが、それなりに大きな奇声だったようだ。
一般の乗降客までもが振り返って天童を見た。
すぐさま前方、主将から飛んでくる声――天童、うるさい!
肩を竦めた天童に、俺は空を見上げながら率直な感想を告げる。
「雪が降る様子もない…正直、そんなに寒くは感じないが」
「闘志みなぎってるんだね、若利くん!」
「別段、普段と変わらない」
「いつもみなぎってるんだよね、若利くんは!」
「若利に変な絡み方するなよ――若利、前、進め」
会話に割り込んできた山形に促され、俺は視線を地上へと降ろして会場へと進む先輩たちにつづく。
前方、視界を占める東京体育館は存在感著しい。
立派なつくり、と評していたのは去年の主将だったか。著名な建築家の設計だという。そういったことに一切興味はないが、仙台市体育館に比べると強めの威圧感を覚えないまでもない。
「どうした、若利」
俺自身は普段どおりのつもりでいたが、添川がそんな風に声を掛けてきた。
俺は彼をちらりと見やる。
「どうした、とは?」
「いや…珍しく、少し楽しげに見えたからな」
「楽しげ?」
「若利くん、ちょっと笑ってたよー」
猫背気味に歩きながら、天童。
身に覚えのない指摘なので「そうか」と返すと「やっぱ、闘志みなぎってるんじゃん」と終わったはずの話題が再度投下された。
そこで、黙って聞いていた大平が、首を巡らせて天童に言う。
「お前も闘志とやらをみなぎらせたらどうだ? 暖かくなるかもしれんぞ」
煽られた天童が真顔で答えた。
「無理ィ、俺、普通の人間だし」
「若利、天童殴れ」
「つーか、仙台の方が寒いだろ」
俺の周囲がにわかに賑々しくなり、主将からもう1度、今度は「2年うるさい!」との声。
添川が何も言わずに天童だけ真後ろから頭を小突いた。