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【HQ/R18】二月の恋のうた

第25章 片翼の鳥(1)


天童の発言を不快に感じた理由。

(…聞きたくはない)

俺は、天海の「名前」を聞きたくない――天童の口から。
俺以外の男の口から。

俺のものではない。
もう、俺のものではない。
わかっていても…なお、“それ”が許容できていない。

「…で、どういう話」

数歩先で立ち止まり、上半身を捻って天童が探るような口調で訊く。
試合中に時々見せるような鋭い視線で。
俺は軽く瞑目し、大きく吸った息を吐き出した。そうして、胸の内を整理し、自身にも説くように語る。

「…俺は、未だにお前が天海を名前で呼ぶことを好ましく思わん」
「別れたんだよね、若利くんたち」

目を開け、頷く。

「俺が天海に振られた」
「ありさちゃんの名前について若利くんがとやかく言う権利はないよね?」

正論。
俺は…抗う。

「権利はない。だが、権利の有無の話でもない」
「もう1度聞くね。これってどういう話?」
「俺がお前の発言を好ましく思っていないという話だ」
「何で?」

横っ面を叩かれた気分だった。
強烈なサーブを真横に叩きつけられたかのような衝撃。

天童が器用に片目を閉じて
「若利くん。何で?」
と質問を繰り返した。
回答を催促するように。

その眼差しが確信させる――ゲスモンスターと呼ばれるこの男は、おそらくは俺の答えを知っている。
そして、俺も、俺自身が答えを知っていることを知っている。

「…俺が…未だに天海のことが好きだからだ」

声に出し、そのことによって顕れた事実を受け入れる。

俺は…忘れられていない。
あの姿を。あの声を。

天童が俺を凝視し、不意に右の口端だけを歪めた。

「うん、知ってたよ」

そう言ってから彼は「みんな」と付け加える。目を向ければ全員が天童の言を肯定するような表情で俺を見ていた。
やがて、苦笑したのは山形。
「気付かないわけねーよな」
「だな」とは瀬見。

俺は千里眼を持つチームメイトたちを等しく見やり、率直に詫びる。
俺はまだ…迷惑をかけているらしい。

「すまん。さっさと切り替えることに努める」

言い切り、その決意が鈍らぬようにと俺は踵を返した。
「え、ちょっ、若利くん!」
「待て待て待て!」
「意味違ぇよ!」
「牛島さん!」

慌てた複数の声が背中を追いかけてきた。
俺は、歩みを止めずに寮まで歩いた。
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