第25章 片翼の鳥(1)
賽銭を入れて、参拝。
その後、天童が神籤を引きたいと言い、揃って社務所へ移動した。
札や守り袋が並んでいるのを添川や大平と眺めながら、俺たちは天童が神籤を引くのをただ待つ。
暇を持て余した瀬見と山形は、少し離れたところでサーブとレシーブの練習をしていた。練習、と言っても実際のボールは当然この場にはない。シャドウで行なっている。
先に寮に戻ったらどうか。
声を掛けようか掛けまいか考えつつ、俺の意識は傍らの大平たちの会話へ。
「白布は、去年、受験用のお守りとか買ったのか?」
「母が合格祈願を買ってきました」
「そうか。効果抜群だったな」
「白布自身の頑張りが大きいと俺は思うけど」
「あぁ、それはもちろんそうだろう」
「うちに入ってからも白布には頭が下がる思いだしな」
「え…あ、はい…」
褒められ、白布が面映ゆそうに俯く。
瀬見や天童には怯まず手厳しいことを言う白布だが、3年の先輩方を始め、俺や大平、添川には従順だ。
やや気恥ずかしげに顔を伏せる様を目の端に留める。
また、眼裏に知った影が過った。
「なんで賢二郎見てるわけ?」
知らない間にそば近くまで来ていた天童が、俺の肩に顎を載せるような姿勢で話しかけてきた。
俺は天童を一瞥し、答える。
「白布を見ていたわけではない。考え事をしていただけだ」
「…ありさちゃんのこと?」
会話の間合いを天童が一気に詰めた。
俺は顔をしかめる。
天童は、来たとき同様に足音を立てずに離れて行く。
「天童」
「なに?」
「その名は口にするな」
声が硬い。
それは自分でもわかった。
「若利くんって前カノの名前を聞きたくない派?」
「違う」
断言は力強く。
“あの日”以来、誰からも天海の名前を聞いていない。
自分ですら、声にも出してはいない。
だが…
「そういう話ではない」
「どういう話?」
やけに天童が食い下がってきた。
ふと、視界の隅で山形と瀬見を捉えた。
シャドウ・バレーをやめ、固唾を飲んでこちらを注視している。
視線を走らせれば、白布と川西の1年もそれとなく俺を見ていた。大平と添川も。
ここにいるバレー部全員が俺の答えを待っているようだった。
俺は彼らから意識を切り離す。
そして、黙考に耽る。
天童の発言を不快に感じた、その理由は何か。
――自問して、すぐに答えを得た。