第24章 ★「さよなら」(2)
ぐったりとした身体を、まだ乱れきってはいないシーツの上に投げ出し、天海は全身で呼吸をしている。
忙しく上下する胸に唇を近づけ、口に含もうとしてその衝動を寸でのところで抑えつけた。
――“続き”を、したくなる。
彼女の中から引き抜いていない俺のそれは爆ぜたばかりだが、彼女の反応次第ではすぐに次を始められるだろう。
今までがそうであったように。
落ち着ききっていない息を大きく吐いて、眩しいほどに白い、仄かに色付く肌にキスを落とす。
そしてそのまま、新たにキスマークをつける。
小さな呻き。
気だるげにしていた彼女が、やんわりと俺の頭を抱く。
拒むのではなく、大事に、抱く。
俺も、天海の背と湿ったシーツの間に手を入れて彼女を抱き寄せる。
キスマークを、また別の場所へ。
そうやって、何ヶ所だろうか、情欲の余韻を散らしたところで、不意に天海の手の力が強まった。
「…あなたを、見てる…」
彼女の呟き。
「この先も、ずっと、ずっと。あなたと、あなたのバレーを。あなたの行く先をずっと見てる。あなたを誰よりも応援してる」
――終わりを悟る。
触れている天海の肌、その下から聞こえてくる心音にしばし耳を傾けた。
発すべき言葉を模索する。
「…ありさ」
目を閉じる。
心地良い温もり。香り。
バレー以外に、初めて、俺が欲して手に入れた存在。
「お前は俺の標だ」
いつからか感じていたことを初めて声に出す。
彼女自身に、俺自身に、刻むように。
「この先もずっと。それは変わらない。お前の前を、俺は、歩き続ける」
天海は何も言わない。
言わないのか。言えないのか。
胸の内を推し量れるわけもなく、俺は彼女の鼓動だけを聞いて過ごす。
…やがて、俺を抱く腕の力が、フッと抜けた。
「シャワー…先に浴びて」
前置きのない勧告に、俺は
「…わかった」
と応じる。
「…終わったら…部屋を出て」
「あぁ」
「振り返らないでね」
「振り返りなどしない」
小さな笑声が聞こえた気がした。
天海は、俺の身体を押し返す。
俺はそれを受け入れ、離れる。
彼女との交わりも解かれる――繋がりが断たれる。
俺はあえて顔を見ないようにしながら背を向け、ベッドから降りた。
「さよなら」
最後に聞いた言葉はそれだった。