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【HQ/R18】二月の恋のうた

第24章 ★「さよなら」(2)


「別れる…」

おうむ返しにその単語を口にして、俺は自分が衝撃を受けたことに一拍遅れで気付く。
天海は瞬きをしてから、仕切り直したような微笑を向けてきた。

「今日を最後に別れてください」
「どういうことだ」

反射的に出た声は硬い。

「なぜ…そんなことを言う?」

お前が。
俺ではなく、天海、お前が。

そういう意味合いで尋ねたが、天海は首を傾げて躱すように言う。

「他に好きな人ができたから…って言ったら?」
「嘘をつくな」
「嘘?」
「お前が俺以外を見ることはない。だから、お前が俺以外を選ぶはずがない」

自明の理を説くような物言いに、誰よりも俺が驚いた。
別れ話をするために会ってはずだ、俺は。

「俺を欺くな、天海」

膝頭に触れている彼女の手、その手首を掴み、強引に身体を引き上げる。
バランスを崩し倒れこんできた彼女を抱き留め、俺は自らも一緒に半回転しながらベッドの上に彼女を組み敷いた。

この数時間は彼女に委ねよう――そう考えていたことなど、無かったことにした。

「…俺に失望でもしたか?」

真下になった彼女へ目を逸らさずに問う。
天海は虚を衝かれた顔をし、だが、すぐに目元を和らげた。

「あなたに失望したことなんてない」
「では、理由は何だ」
「理由は――あなたのマイナス要因になりたくないから」

柔らかい棘が胸の中枢に刺さる音がした。
俺は唇を結んで眉間に皺が寄るのを自覚する。
天海の大きな瞳が翳る。

「…私は、あなたの行く先を阻む障害になりうる」
「天海」
「若利くん、私ね、あなたには前を向いてただただ真っ直ぐに歩いて行って欲しいの。だから――あなたのマイナス要因になりうる私が傍にいるわけにはいかない」

それは、俺が天海に、別れを切り出す時に言おうとしていた言葉そのものだった。

だから言い返せない。

そんなことはない、と。
そんなことになりはしない、と。

「若利くん…私も、あなたが好き」

伸ばした両手を俺の首を絡め、今度は天海が俺を引き寄せる。

「あなたの言うとおり…あなた以外に目移りなんてできない。本当に好き。だから…あなたのために私ができることをしたい。させて」

彼女は微笑み、厳かに、再び言った。

「お願い。抱いて。そして…別れて」
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