第24章 ★「さよなら」(2)
熱量を蓄え重みを増していく俺のものを天海は懸命にしゃぶる。
その度に甘い雷撃が身体の中心を貫き駆け上り、脳をガンガンと揺さぶる。
「や、めろ…ッ」
“果て”を身近に感じ、焦りのあまりそう言った。
だが、天海は俺の言葉に従うこともなく、逆に口を窄めて俺を追い詰める。
不意に。
彼女の舌先が俺自身が欲するところを圧しなぞっていった。
「――ッ!」
身の内で顕在化する欲望。
吐き出したい。
すべてを。
今すぐに――。
奥歯を噛み締めて視線を落とせば、
「んっ…んっんっ」
と、くぐもった声を上げ、口いっぱいに俺のものを頬張る天海の姿。
卑猥な唾液の音が、灼けるような欲まみれの思考を加速させる。
吐き出したい。
一滴残らずに、すべてを。
彼女の口の中へ。
汚すつもりか?
――違う、“そういうこと”じゃない。
俺はただ知覚したいだけだ。
天海という存在を。
彼女が俺のものなのだという現実を。
(別れを決めていながら“それ”を望むのか?)
「…ッ…」
根元まで咥え込まれて息を呑む。
閉じた眼裏で見えない火花がチカチカと咲き散った。
頭の中で感情がばら撒かれる。
出したい。
許されない。
権利などない。
飲ませたい。
確かめたい。
汚したくはない。
汚したい。
俺のものだ。
俺のものだ――好きだ。
「クッ…」
俺は、天海の頭を掴んだ。
次いで、一瞬の深い逡巡を経て、彼女の口から今にも爆ぜそうな己自身を抜き去った。
天海は、こぼれ落ちた、彼女の唾液でいやらしく光る俺のものを両手で包み込むように持つ。
そして再び咥えようとした。
それを俺は、天海の肩を押し返す形で止めた。
「…若利くん?」
「もう、いい…」
仰ぐ瞳を見つめ返し、1人、全身で息をしながら俺は言う。
なぜ、と訊ね聞く眼差しに考える前に言葉が出た。
「お前を、抱きたい」
拡散した想い、その中心にある、愚かなほどにシンプルな答え。
言うまいとしていた台詞が続く。
「好きだ、天海…だから、お前を、抱きたい」
天海は、俺の顔を穴が空くのではないかと思えるほどに見つめ、濡れた唇で言葉を紡ぐ。
「私の願いを叶えてくれるなら」
静かに、美しい声で。
「牛島若利くん。私と別れてください」