第24章 ★「さよなら」(2)
落とした“優しいキス”は1つだけ。
それ以上を求めてタガを外しにかかる本能を、なけなしの理性で抑え込む。
天海は目を閉じたまま、身じろぎもせずに立ち尽くしていた。
が、やがてゆっくり息を吸い、それを契機に呪縛から解けたように動き出す――瞼を持ち上げ、俺の腕の囲いからするりと抜けて行く。
…去っていく。
そんな風に思ったが、違った。
彼女は無言のうちに俺の手を取った。そして、ベッドへと誘うと「座って」と優しく命じてきた。
乞われるままにベッドに座せば、天海は俺の正面に回り込み、その場でゆっくりと膝を折った。
「天海――」
伸びてきた、爪の形も綺麗な細い指が、俺の唇の真ん中にピタリと当てられて封をする。
何も言うな。
そんな意思表示だと認識し、口を噤む。
天海はその指で俺の唇を端までなぞり、頬骨を掠め、眦までを指の腹で撫でた。
まるで顔の造形を確かめるように。
それから、やや伸び過ぎているきらいのある俺の耳元の髪を、ほんの少し、少しだけ梳いてから、おもむろに離すと、シャツのボタンに手を掛けた。
堅いボタンを1つ1つ丁寧に外す天海は、はだけさせた俺の肌に口付けを落とす。
いつも俺がそうしているように、まずは鎖骨から。
次いで、胸の頂きへ。
未だかつて、他人どころか自分ですら積極的に触れることのなかった胸の尖端。
そこを彼女は舌で軽く舐め、熱い息を吹きかけながら小さな音を立てて吸った。
「ッ…」
ゾクリとした感覚。
荒い息が漏れる。
眇めた目で「何を」と問えば、天海は上目遣いの瞳に一瞬だけ嬉しそうな色を浮かべた。
そしてまたすぐに、彼女は今度は大きく出した舌で、俺の胸元をスローモーションで舐める。
「…ッ、アッ…」
身体を内から揺さぶるものに俺は詰まった声を漏らし、己の口元を押さえた。
その間にも天海は丹念に、ねっとりと、胸を刺激し続ける。
開いたままの口から荒い息が本人の与り知らぬところでこぼれて行く。さすがに自分でも気付く――感じているのだと。
「…ッ…ハァ、ッ…」
右手でベッドの端を掴み、彼女がもたらす細やかな快感に意識が沈む。
なぜか無性に喉の渇きを覚え、口内に溜まり始めた生唾を飲み込んだ。
天海は斜め下からそれを見つめ――俺の下半身に触れた。