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【HQ/R18】二月の恋のうた

第23章 「さよなら」(1)


仙台市内に宿泊する機会がないため、ホテルと言われてもパッと出てこない。
結果、訪れたのは以前天海と来たところだった。

「この部屋、広いね」

解錠されているドアを開け、室内に入った天海の第一声。

彼女と初めて結ばれた“あの時”の部屋は、今日は既に使用されていた。
さすがはクリスマス…と言っていいのか。
昼下がりの時間帯にも関わらず、部屋はほとんどが埋まっている。

俺はベッド近くのソファの上にワンショルダーのバッグを投げ捨て、脱いだダウンも同様にする。
天海は部屋に置かれたテレビの傍ら、1脚だけある椅子の上に、やはり自分のバッグを置いたところだ。

天海…と発しかけた声を飲み込む。

目にも鮮やかな赤いコートを音も立てずに脱いだ彼女の後ろ姿の美しさ。
凛として、しなやかな、華のような美しさ。

――早く切り出さなければ、と思う。

思いながらも、何も言わず、言えず、俺は天海の姿を見つめていた。

眼裏へ、焼き付けようと。

瞼を閉じるたびに残影だけでも思い出せるように。
彼女のような存在には、もう出会わないだろう…そんな予感と共に。

これほどまでに狂おしく想う、自分の存在意義を再確認する場所まで“戻る”ことは、もうない。

これから先、俺は立ち止まらず、振り返りもしないと決めたのだから。

(…頂きを目指す)

愚直なまでに、一心に。一途に。

俺は明確な結果を提示しなければならない。
天海に、天海を選ばなかったことの正しさを示し続けなければならない。

「…天海」

言葉を発さずに大股で歩み寄り、俺は背を向けたままの彼女を抱きしめる。

「若利くん…」

どうしたのか…とは尋ねられなかった。
彼女は、ただ、彼女の華奢な肩を抱いた俺の腕に両手で触れ、頭を預けるように頰を寄せた。

好きだ、と言いかけたところを噤む。
別れを紡ぐつもりの唇でそれを言うことの不誠実さを甘受できずに。

俺は、彼女の後頭部に口付け、
「ここへ俺を誘ったのはお前だ…お前は俺に何を望む?」
と終わりまでの数時間を委ねる。

振り向いた彼女は、あの夏の日、初めて会った日、俺を惹きつけた大きな澄んだ黒い瞳に驚きを湛え…やがて、苦笑して言った。

「優しくキスして」

俺は求められるままに、触れるだけのキスをした。
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