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【HQ/R18】二月の恋のうた

第23章 「さよなら」(1)


1月の年始早々に春高本選を控えた白鳥沢バレーボール部には冬休みなど存在しない。
だが、休養日は無いわけではない。

今年は、運良くクリスマスの午後が休養日に当てられていた。
学食で3年の先輩がそれを教えてくれたとき、居合わせたバレー部員は学年関係なく、沸いた。

「良かったな、若利」

すぐにそう言ってきたのは大平だったか添川だったか。
追従したのが天童だったことは覚えている。

「若利くん、これでありさちゃんに会えるね!」
「クリスマスは女にとって大事だからな」

眼前の瀬見のその言葉に、俺は手を止めて尋ね返したはずだ。
大事なのか、と。
答えたのは瀬見ではなく山形だった。

「そりゃ、大事に決まってる」
「女の子はね、イベントとか何年経っても覚えてたりするんだヨ」
「去年、クリスマスに会えなくて別れたって先輩の話も聞いたぜ」
「それ、本当に先輩の話ですか…瀬見さんの、じゃなくて」
「白布、お前な…」
「賢二郎、英太くんに謝って! 英太くんは、去年、ぼっちでクリスマス過ごしたんだから!」
「ぼっちじゃねーよ! つーか、お前と一緒だったろ、天童!」
「男2人の方がもっと切ないですね」
「…太一、お前、俺以外にもケンカ売った可能性あっからな…!」

賑々しく騒ぐ面々を見渡しながら、俺は、

(クリスマスの半日のためだけに天海は来るだろうか?)

と、そんなことを口に出さずに考えていた。

――天海は、来た。仙台まで。

『会えませんか』

メールでその文面を目にした時から、俺は彼女と再会するであろうクリスマスの到来を、心のどこかで遠ざけたくもあり、また、強く待ち望んでいたりもした。
矛盾しているが、それが正直な気持ちだった。

そのクリスマス当日、天海は、どっと流れて来る乗客の波に乗って改札から出て来た。
数週間ぶりだが、一見して、俺は彼女を見つけた。いや、俺以外であっても彼女の姿は容易に見つけたことだろう。

髪を高く結い、赤のダッフルコートを身につけ、胸を張り背筋を伸ばし颯爽と歩いてくる天海には、人の目を惹きつける何かがあった。
実際、改札を出たばかりのサラリーマン風の男が1人、2人、傍らを過ぎていった彼女を見つめていた。

俺のものだ。
その男たちに言いたくなった。

天海は俺のものだ――今日までは、と。
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