第22章 冬の稲妻(3)
5分ほどの間に“会長”が大会関係者と話をつけたらしい。
天海が彼らの元に赴く様子を眺めていたが、誰も慌てた素振りは見せなかった。
「若利くん、なんかよくわからないけど、ありさちゃん大丈夫?」
詳しい話をせずに巻き込んでしまった天童が改めて潜めた声で聞いてきた。集まってきた大平と瀬見をも一瞥してから
「大丈夫だろう」
と多分に憶測含みな言葉を置けば、それ以上は深く問わずに天童は黙る。
「あっ」と瀬見が短い驚愕の声を発したのはその時だった。
「どうした?」
全員を代表して大平。
「俺、さっきのあの男、見たことある」
「英太くん、それ、俺も思ってた。…どこでだかわかる、覚えてる?」
「たぶん、アレだ、えっと…国体。1度、階段の踊り場で天海さんを見かけながら声を掛けずに行ったことあったろ? あの時、天海さんと一緒にいたスーツ姿の奴。あいつじゃないか?」
思い出しながらの瀬見の発言に「あぁ!」と天童が感嘆して両手の人差し指を瀬見に向ける。
「英太くん、記憶力あるぅ!」
「指、指すな」
褒められてまんざらでもない顔をしつつ、天童の指を瀬見が払い退ける。
俺も一拍遅れて「よく覚えていたな」と継いだ。
服装と髪型は違うが、言われてみれば確かに“あの男”だ。
「あの人、若利くんがありさちゃんに告白した時もいたよね、確か」
「そうそう。…ってことは、天海さんの関係者?」
「教師だそうだ」
2人の見事な連携に、俺が知っている情報を挟み込む。
専ら聞き役の大平が顎に手を当てて呟いた。
「ややこしそうな話だな」
「獅音、何言ってんの。若利くんの携帯で聞いてたじゃん、一筋縄じゃ行かなそうな状況になってる、って」
「それにしても、若利のあんな怒った姿、初めて見たな」
瀬見の言葉に、俺は言い忘れていたことを思い出し――頭を垂れた。
「すまん」
「えっ、ちょっ⁉︎」
「どうした、若利⁉︎」
当然のことに天童と瀬見が困惑を表す。
大平だけは察した様子で、先ほど同様、俺の肩を叩いた。
「気にするなって言ったろ、若利」
「だが…俺があの男を殴っていたら…俺はお前たちに迷惑をかけるところだった」
迷惑、の2文字に意味を悟り、天童たちも口を噤む。
「2度とあんな愚かな真似はしない」
沈黙する彼らに俺は明言した。