第22章 冬の稲妻(3)
結果として、警察は呼ばないという話になったらしい。
“先輩”が俺たちに説明しに来た。
代わりに天海たちの学校にはすべて事情を話すこととなり、俺の携帯に録音していた音声でのやりとりが、急遽、大会事務室のPCを使って取り出されることになり全員で移動した。
抜き取り作業の間、大平と瀬見は会場に残してきていた俺たちの荷物を取りに戻った。
貴重品も入れていた荷物だったが、人が多いことが幸いしたのか。何も盗られることなくすべてを無事に回収できた。
その過程で、大平と瀬見は試合を少し観戦したようだ。
「フルセットになってたぜ」
そう言って、最後の最後、デュースが連続していたところを見てきた瀬見が感想を漏らした。
「なんつーか、あれはただの気力の押し合いだった」
「と言っても、もつれ込んだ試合の最後なんて大概あんなもんだろうがな」
2人の感想を「なんの参考にもならない」と斬って捨てた天童は、いまは事務室のスピーカーから流れ出る表彰式のアナウンスは耳を傾けていた。
「いいよね、優勝って」
それは独白だったのだろう。
だが、俺も大平も瀬見も、聞こえてしまったため示し合わせたように天童を見た。
集まった視線に気付かないわけはなく、天童が「なに?」と口にする。大平が「珍しいな」と率直な感想を伝えた。
「お前はそういう最終的な結果にあまり興味がないと思ってた」
「え、そう思われてたの、俺。優勝って好きだよ、他を全部叩き落としてテッペンってサイコーじゃん?」
「天童らしい表現だな、おい」
「…英太くん、バカにしてるよね、その顔は」
「してねーよ」
「元からそんな顔だっけ⁉︎」
「元からそういう顔だよ!」
2人のやりとりに大平が笑う。
俺は…笑わなかった。
笑わず、自分が失いかけたものを見つめていた。
「牛島君」
やがて、やってきた“会長”が俺に携帯を返しながら今後について話す。
「タクシー呼んでおいたから、それに乗って東京駅まで行ってくれないか? 天海は、ちょっと手が離せそうにない」
俺は彼の要請を受け、すぐに荷物を持った。
「天海さんに挨拶しないのか?」
瀬見が気遣って尋ねてくる。
「いや、いい」
断言して、俺は歩を進めた。
そこに迷いはない。
進むべき道を俺は決めていた。
――天海とは別れようと、決めていた。