第22章 冬の稲妻(3)
地下駐車場は満車だった。
車種はわからないが多人数が乗れるワゴン車が多い。そのせいで一見して奥まで見渡すことは難しい。
先着したばかりの“先輩”がこちらを顧みる。
アイ・コンタクト。
別れて探すことを決めて頷いた、その時に――喚くような男の声。
左手の奥。
「天海!」
叫び、駆け出した。
ここち駆けつけるまでに雑多なことを考えた。
それらのすべてを捨て去り、何も考えず、いいや、天海のことを考えた、天海のことだけを考えて――俺は全力で走った。
駐車場の端に彼女と男はいた。
車の陰ではなく通路のど真ん中だった。最初からそこにいたというわけではなく、縺れ合った末にそこに至ってしまったようだった。遠巻きでもわかるほどに彼女たちは目立っていた。
天海は、仰向けに倒れていた。
気を失っているのか。
彼女は、自分の上に馬乗りになっている男に抵抗らしい行動は何1つしていない。
男の方は、彼女に跨がりながら、彼女の手荷物を漁っている様子だった。
だが、俺が天海の名前を呼んだことで異変に気付いたらしい。
こちらを見るや否や、天海のバッグを抱えたまま俺とは逆方向、車の出入り口へと逃げるべく腰を浮かした。
――逃がしはしない!
決意が地面を強く蹴る。
ぐったりとしている天海の傍らを過ぎ、まろぶように走り出した男へ手を伸ばす。
料金精算機の手前で肩を掴み、俺は身体をこちらに向かせる。
焦燥と恐怖に彩られた表情が俺の目に映る。
どこかで見た顔。
「天海、天海ッ!」
背後で“先輩”の声。
天海…そう、この男が天海を傷つけていた。
電話越しの悲鳴と乾いた音。
四肢を投げ出し、仰向けになっていた身体。
その上に…あの華奢な身体の上に乗っていた男。
――身体が発火したような感覚に襲われる。
血が沸騰したように、皮膚の下で熱い何かが生まれた。
胸元を掴み上げて、左手を固く結ぶ。
頭の中が白から赤に、真紅に染まり、ただただ、この男をぶちのめさなくてはという想いに支配され、俺は拳を振り上げる。
「若利!」
それは大平の声だった。
鋭い矢のように俺に届き、突き刺さった。
我に返る。
振り上げた拳はそのままに時を止め…俺は、自分のその左手をゆっくりと顧みた。