第22章 冬の稲妻(3)
最初に駆け出したのは今度も“先輩”だ。彼女は弾丸のように一目散に走り出す。
俺も、素早く木兎と赤葦に目礼をし、“先輩”の後に続く。
階段へ。
その先の地下駐車場へ。
(天海…)
居る可能性が高い場所が判明してことで、思考は別の方向へ舵を切る。
なぜ。
俺に何も言わずにいた…天海。
この事態そのものを指しているのではない。
この事態に至るまでの経緯、それが何1つ語られなかったことに対して、だ。
話す機会など幾らでもあったはずだ。俺たちは秋口から世間の言う「彼氏」「彼女」の仲なのだ。
(…話すに値しなかったということか)
何ができるわけでもなし、所詮は部外者と蚊帳の外に置いたか。
決めつけかけて、即座にその一方的な考えを破棄する。
彼女は聡明だ。
自分が関わっていることを話す価値がないと思ったとしたら、その相手には話す内容を選別せずに自分のことや周りのことを一切語らない、そちらを選ぶだろう。
その方が簡潔で誤りがない。
俺は、天海の口から、天海のことをたくさん聞いてきた。
学校生活、生徒会の活動、弓道部の頃のこと…“川西”との過去。
今回の件に関して話さなかったことには理由が、彼女の意思が、関係していると思う。
“もう少しスマートに収めるはずだったんだけど”
――階段を下りながら、唐突に、仙台で聞いた台詞を思い起こす。
県予選が行われたあの日も、自分とはまったく関係ないことに首を突っ込んだ天海。
“天海は…知っていると思うけど、一生懸命ないい子だから”
“責任感強いんだよ、あれは”
昨日聞いたばかりの“会長”と“先輩”の言葉。
そうか、と漠然とした答えに俺は辿り着く。
天海は…全部を1人で背負いこむつもりなのだ。
1人で背負い、誰の助けも求めず、カタをつけようとしている。
抱え込み、飲み込み、それこそ倒れるまで…いいや、倒れこんだとしても、彼女は内に取り込んだものを吐き出しはしないだろう。
過去が、実証している。
“天海…お前は強い女だ”
睦み事の最中に告げた言葉が胸に去来する。
強さ――彼女にとってその言葉の結実が今の行動に繋がっているのだとしたら…。
強さとは必要なものなのだろうか。
強さとは…何だろうか。
俺は、誰にともなしに、問う。