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【HQ/R18】二月の恋のうた

第22章 冬の稲妻(3)


「あれ、牛若――」
「天海はどこだ」

相手の言葉を最後まで聞くことなく、俺は声を尖らせて問い質す。

事情を知らないからこその、緊迫感の欠片もない表情が答えとして返ってくる。
瞬間、胸の内側を占める焦燥感が飽和状態に達して、苛立ちとなって表出した――俺は詰るように彼に問いを重ねた。

「天海は、どこだ⁉︎」
「若利」

後を追ってきた大平が俺を呼ばわる。
その声で大平の言いたいことを察知した。

…そうだ。

舌打ちをする。

そうだった。
この男は天海に会っていない…天海を知らない。

俺の問いは何の意味もない。

「…どーいうことだよ」

剣呑な空気を醸し出して木兎が俺を睨め据える。
傍らに並んだ大平が事情を話そうと口を開いたが、それよりも若干早く、木兎の斜め後ろに控えた赤葦が低めた声で聞いてきた。

「何かあったんですか?」
「人を探している」

被せ気味に言い放つ。

「俺たちが探している人物をお前たちが見ている可能性がある…さっきまでどこにいた?」
「そこのトイレ」

大幅に説明を省略して訊けば、見当違いの答えが木兎の口から。
空気を読んだ赤葦が「ずっと館内です」と補足する。

俺と大平は振り向いた。
目が合った全員が頷く。屋外の選択肢は、ない。

「かなり館内を歩きました…知りたいのはいつ頃ですか?」
「5分…いや、2、3分前!」

身を乗り出しての“先輩”の言。
赤葦は片眉を上げて乱入者を見やり、しかし、“先輩”が誰なのかという基本的なことを聞くこともなく、答えだけを俺たちに提示してくれた。

「…駐車場、ですね」
「駐車場⁉︎」

おうむ返しは、天童。
俺も意味を図りかねて、赤葦を凝視する。
ずっと館内にいたと言ったのは彼自身で――。

「…そうか」

“会長”がボソリと呟き、“先輩”と顔を合わせると異口同音に叫ぶ。

「地下駐車場!」

赤葦がそれを首肯した。

「えぇ、地下の駐車場です。木兎さんが迷い込んだので」
「地下に駐車場なんてあるの、ここ⁉︎」

誰に聞くとはなしに天童。
俺も驚いている。
いま俺たちがいる地下1階、ここより下は何もないと思い込んでいた。ここは「体育館」なのだから。

「その地下駐車場への入り口はどこだ?」

俺は質問を変えて木兎に詰め寄る。
木兎は親指で背後、階段を指差した。
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