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【HQ/R18】二月の恋のうた

第22章 冬の稲妻(3)


試合の歓声。
それすら邪魔だと感じながら、会場であるメインアリーナを囲む廊下をひた走る。

角を曲がると、先行していた瀬見が「会議室」と書かれた部屋を開けていた。
が、すぐさま「失礼しました」と体育会系ならではの発声で言い放ち、扉を閉める。

「英太くん!」

彼よりもさらに先を行く天童が振り向き、珍しく声を張り上げた。

「電話の向こう側からこの歓声が聞こえてこなかった、だからこの辺じゃないよ!」

天童が俺と同じ“読み”を口にする。
瀬見は唸るような声を挙げて、追いついた俺たちと共に天童のところへ駆けつける。
合流する直前、サブアリーナから出てきた“先輩”たちを視界に捉えた。

「こっち、いない!」

全員の視線が天井を、そのさらに上にある地上を見据える。

「さっきの話どおり、俺と英太くんは外」
「サブアリーナの上は弓道場だと…」

不案内な場所、館内図を頭に思い描きながら話していたところで手元の携帯から大きな衝撃音。
全員が凍りつく。

そこへ、再び、何かを叩く音。

今度は悲鳴も呻き声もない。
ただ、全体的に音が遠い――携帯自体が遠くに追いやられた?

「館内放送を頼もう」

“会長”が、今まで聞いてきた中で最も強い口調で言った。

「事情を話そう。牛島君のこの録音を聞かせて動いてもらう」
「そんな時間あると思う⁉︎」

“先輩”が、鋭利な、恋人に対するものとは思えない目で“会長”を射抜く。

「落ち着け」
「落ち着けるわけないだろうが!」
「なら、ここで喚いていればいい。俺は時間が惜しい」

冷淡な“会長”の言葉に、激昂するかと思いきや“先輩”は唇を噛んで大きく深呼吸をした。

それから、
「…悪い。焦った」
と幾分落ち着いた声音をこぼす。

何も言わずに“会長”は彼女の頭をポンと叩き、大会本部に行くので来て欲しいと俺に頼んできた。

一も二もなく頷き、残るメンバーで捜索場所について再検討を始める。
そのタイミングで“彼ら”が現れたのは、俺たちにとって実に僥倖だった。

「いい加減、席に戻りましょう。木兎さん」
「んー、特に面白いとことか無かったなー」
「あるわけないじゃないですか」

会話は後方、通り過ぎたあの会議室の向かいから。
梟谷の木兎と、もう1人は――。

“赤葦ー! こっち、違ったわー!”

赤葦…!

俺は弾かれたように彼らの元へ向かう。
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