第4章 夏の思い出(3)
ミーティングが始まると、俺の脳は対戦相手の情報を入れ、考えることだけに集中した。
天童からの宿題のような質問は回答を導き出す前に据え置きされる。瀬見の話に関しても同様の扱いを俺はした。
結局、天海の件に関して俺から瀬見に直接尋ね聞いたのは、3回戦の後、続く4回戦に向けてアップと待機を行うサブアリーナへ移動した時だった。
「瀬見、ちょっといいか」
瀬見はコートから少し離れたとこで座り込んで自らのテーピング作業中だ。
初日のグループ予選まではセッターとしての出番を白布に奪われていた瀬見だが、本戦では正セッターとしてどの試合も1セット目から出場している。
「ん?」
作業に没頭しながらの浮いた返事。
俺は、邪魔してすまん、と詫びてから口を開く。
「天童に聞いた。天海のことが好きなのか?」
――瀬見は手を止めた。
そこから次に言葉が発せられるまで約10秒。
サーブであれば制限時間、確実にオーバーだ。
「はぁっ⁉︎」
奇声を発して瀬見が顔を上げた。
「天童、そんなこと言いやがったのか⁉︎」
「あぁ」
頷き、俺は目で問う。
瀬見、それで?
手を止めたまま、瀬見は俺を見上げてぶっきら棒に言う。
「…す、好きなわけじゃねぇって。好みだとは言ったけど…。勘違いすんなよ、若利。別に狙ってたりしねーから」
「…狙わないのか?」
「はぁぁぁっ⁉︎」
率直な疑問を呈すると、先程よりも一回り大きな奇声を瀬見が発する。
「おまっ…お前、言ってることの意味、自分でわかってるか⁉︎」
「意味?」
「俺があの先輩、狙ってもいいのか⁉︎」
「よくわからないが…狙うというのは、瀬見、お前自身の問題であって俺は関係ないと思うが」
「ないのかよ! あるだろ! って、お前、そこからかよ!」
おかしなことに、天童と同じことを瀬見が言う。
俺は不思議さよりも不快さを抱いて、眉間に皺が寄るのを自覚しながら瀬見に問うた。
「天童も言っていたが…“そこ”とはどこだ?」
瀬見が大きくため息をつく。
「…お前、自覚なしとか…どこまで天然なんだ…」
「自覚?」
「わーった。試合終わったら、ゆっくり話そう」
脱力気味に瀬見が言ってこの会話に終止符を打とうとする。
それをとどめたのはやってきた天童だ。
「若利くん、大変。天海さんのトコ、負けちゃったよ」