第21章 冬の稲妻(2)
『たかが後輩1人のために人生を棒に振るのか?』
『ご心配、痛み入ります。ですが、棒に振るつもりなんてありませんし、そもそも私の人生ですので先生はどうぞお気になさらず』
明朗かつ玲瓏な声音。
聞き取りやすいその声が「先生」という単語を強調した。事情を知る俺、“先輩”、“会長”の3人に緊張が走る。
『そんなにまでして画像を回収したいんですか?』
「天海のやつ…やっぱり首突っ込んでる」
“先輩”が舌打ちした。
それでその場にいた全員が魔法が解けたように密やかな声で話し始めた。
「これ、ありさちゃん、わざと聞かせるようにしてない?」
「そんな気ぃ、すんな」
「事情はよくわからんが、全部話が終わるまでは行かない方がいいか…?」
「ストップ。君ら、聞いて。天海の意図はわかんないけど、場所は早く把握すべきなんだ」
“先輩”が道を誤りかけた議論を軌道修正してみせる。
『…持っているのか、天海』
『持っているとしたらどうしますか、先生』
『…もう1度聞くが、お前がそこまでする理由は何だ? お前に何の利益がある⁉︎』
男の声が尖った。
俺は顔を上げて「手分けして探すぞ」。
どこから探すか?
天海たちの会話に雑音は入り込んでいない。少なくとも会場ではない。
外か?
あるいは、サブアリーナ?
サブアリーナの2階には弓道場があると聞いた…弓道…そこか?
『私は、ただ単に――』
天海の話が続いている途中のことだった。
『赤葦ー! こっち、違ったわー!』
遠巻きながら叫んでいると思われる、聞き覚えのある声と呼び名。
『きゃっ!』
音だけで何が起こったのかはわからなかった。
天海が突然悲鳴を上げる。
揉み合っているような籠ったような音。
“先輩”が走り出した。
「おい! 闇雲に――クソっ」
止めようとした“会長”が舌打ちをして追いかける。
緊迫した雰囲気の中で、瀬見が天童に目配せする。
2人が“先輩”たちとは逆方向へ走り出す前にスピーカーからもう1度悲鳴。
『いやっ』
『寄越せ!』
乾いた音。
1発、2発…痛い、と聞こえた。
「天海ッ!」
自分の喉から迸ったそれが怒声に近い叫びだと気づく前に、大平が「若利!」と瀬見たちの後へ続き、呼ぶ。
俺は携帯を握りしめたまま走り出す。