第21章 冬の稲妻(2)
俺は、細かい説明を省いての天海捜索の要望を出す。
最初に応えたのは瀬見。
「どこを探す?」
余計なことは言いもしないし聞きもしない。
重い空気に何がしかのものを感じ取ったに違いないが、そこにはまったく触れずに話を進める。瀬見らしい空気の読み方に助けられる。
「人数増えたから敷地内全体を探そう」と“先輩”。
「2人ずつ、3チームで。緊急時はお互いに携帯で連絡取ろう。牛島クン、私の番号を…いや、逆か、教えてもらって私が掛けた方が早いか」
「んじゃ、ありさちゃんの先輩、俺の番号読み上げるから掛けてちょーだい!」
年上に対するそれとは思えない天童の言動だが、状況が状況なので普段この手のことには注意を促す大平は何も言わない。
代わりに、彼は瀬見とチーム分けについて話を進めていた。
「俺と若利が共に行動しよう。瀬見は天童と」
「りょーかい。俺ら、人があまりいなさそうな外に行くわ」
「…そうだな、人が多いところはパッと見て天海さんだとわかる若利や天海さんの先輩方に見てもらった方がいいな」
「――速いね、決断が」
脇で聞き役となっていた“会長”が感心したように呟く。
状況判断、そこに基づく役割分担の決定と実行。うちの連中は自発的に「白鳥沢」という強豪校を選んできた奴らだ、必要な場面において自ずと動くことができる。
「若利、俺たちは会場内に戻ろうか」
「わかった」
同意した瞬間、俺のズボンの中で細かな振動が起こった。
俺は携帯を取り出した。
着信名は――天海ありさ。
「牛島クン」
表情の変化を読まれたか。“先輩”が促す。
言われるまでもなく、タップして通話を開始させ、スピーカーボタンを押下した。
「天海、いま――」
『お前に何の利益がある、天海』
俺は天海への言葉を飲み込んだ。
知らない男の声。しかも、どこか切羽詰まっている。
『騒ぎが大きくなればお前の推薦だって取り消されるぞ⁉︎』
『その時はそれまでです』
会話が一方的に運ばれてくる。
こちらの声は聞こえているのか?
「若利くん、これ、念のため録音しておいた方がいい。前に入れてあげたアプリ、起ち上げて」
小声で天童が助言。
俺は無言でかつて天童がインストールしたアプリを起動した。
会話はまだ続いている。