第21章 冬の稲妻(2)
第2セットは一方的な展開のまま終わった。
昨日、本命を倒したチームはこれで2セット先取。次の第3セットを取れば念願の初優勝らしい。
いまいち盛り上がりに欠けるな、と前の列から声が上がった。
それはこの試合会場で大多数を占める率直な感想に違いない。どんな素晴らしいプレーで人を魅了しても、結果が伴わなければ切って捨てられるのが現実。
強い者が勝つのではなく、勝った者が強い。
その無慈悲な結果論に俺たちは立ち向かっていかなければならない。常に。
「天海、いない?」
セット間のタイムアウトが終わるブザーが会場内に鳴り響く。その音に混じって、後方、階段からそんな声が聞こえた。
俺だけではなく並んで座った全員が声の主を見上げた――“先輩”だ。
上も下も身体にフィットした服装で佇むその長駆は、下手な男性モデルよりも絵になっている。
数列後方、彼女のすぐ脇に座っている女性2人が笑顔で何やら話しては“先輩”をちらりと見上げていた。
一方、見られている方は、彼女たちとは正反対の、気難しそうな表情を形作っていた。
「牛島クン、天海は?」
コートに出て行く選手たち。
観戦の邪魔になりそうなものなのに、“先輩”は俺に話しかけてきた。
この人は、あまり周囲に頓着せずに話しかけてくる。…だが、きちんと“弁えている”人ではある。
――胸の奥がざわつく。
「…あなたに呼ばれた、と席を外しました」
「天海が?」
彼女の表情が、より一層険しくなる。
「私は呼び出してなんていない」
齟齬。
語られる事実の違い。
俺も眉根を寄せる。
(天海が…嘘をついた…?)
決めつけるのは早計か。
この“先輩”こそが嘘をついているかもしれない。
(…いや、それはない)
わざわざここまでやってきて俺たちを欺く、その理由がこの“先輩”にあるとは思えない。それに、性格にもそぐわない。
(天海が嘘をついてまで席を立った…なぜだ? 天童たちの話題になっていたから?)
いや、それも違和感がある。
今朝の天童とのやりとり。
どんな猥褻な類の質問も躱していた天海が、さっきのやりとりが堪えて席を外すというのは考えづらい。
「ごめん。邪魔したね」
“先輩”がこちらに背を向けた。
俺は立ち上がり、迷わず彼女の背を追うことを選んだ。