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【HQ/R18】二月の恋のうた

第21章 冬の稲妻(2)


観客席がかなり埋まり、場内が雑然としてきた頃に決勝戦は始まった。

俺たちが陣取った場所に大学の関係者などはいないらしい。点が入るごとの一喜一憂はなく、両校どちらにも属しない会話がそこかしこから聞こえてきた。俺たちも気兼ねなく、昨日同様、要所で思い思いに意見を述べる。

途中、瀬見が思いついたように携帯を取り出し、何やら忙しく指を動かし始めた。
試合は第2セット。やや、ワンサイドゲームだ。
天童は今の段階でもう既に試合に飽きてしまったのか、隣の瀬見の手元を覗き込んだ。

「英太くん、エッチなサイト見たりしてる?」
「違ぇよ。って、覗き込んでくんな」
「いーじゃん、ケチ。やっぱエッチなサイトだ」
「なんでそうなる」
「チアでも見て興奮したのかなー、って。夜中にありさちゃんの声聞いて布団の中でモゾモゾしてたじゃん」
「――ばっ! お前っ!」

天童が爆弾を投げ込んだ。
俺は横目で天海を伺う。
たぶん聞こえていたであろう天海は試合に集中している。
と思ったが、耳が赤くなってきた。

「お前、そういうことを言うか⁉︎ いまここで言うか⁉︎」
「英太くんが変に隠し立てするから」
「隠してねーよ! 書き込むのに邪魔だったから覗き込んでくんなって言ったんだ」
「うるさいよ、お前たち」

大平が会話の中身に言及せずに短く嗜める。
それから、口を尖らせた天童を飛び越えて瀬見に直接「メモしてるのか?」と尋ね聞いた。

瀬見が首肯した。

「昨日、試合中に話してたこととか、あんま覚えてねーから。携帯のメモ帳に書けるだけ書いておこうかと思ってな」
「録音しとけばいいじゃん」
「どんだけ容量食うと思ってんだよ。お前、いまみたいに関係ない話をぶっ込んでくるだろーが」
「そういう関係ない話題の積み重ねで良好な人間関係が構築される」
「お前のその積み重ねは、どっちかっていう破壊する方だ」

そうだな、と大平が再び喧しくなりかけた空気を元に戻したところで俺の隣で天海が身じろいだ。狭い観客席、肩がぶつかる。

見やると、天海は携帯をバッグから取り出していた。天童とは違い、俺は手元を覗き込んだりしない。
彼女は画面をじっと凝視していたが、不意に俺へ顔を向けた。

「…先輩に呼び出されたからちょっと行ってくるね」

そう言うと、試合中にも関わらず席を立った。
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