第21章 冬の稲妻(2)
どの大会でも決勝戦が行われる日の入りはかなりのものだが、全日本インカレもその例に漏れなかった。
「派手だねぇ」
優勝を争う両校の応援団やチアガールは既に準備を終えており、鳴り物はまだ息を潜めているが会場内の雰囲気は華やかなものに変わっている。
「昨日の座ってた場所、行くぞ」
大平が言う。
俺、瀬見、天童は大平の後について通路を歩いて行った。
天海は、俺たちに先んじて観客席にいた。
昨日と同じ席は他の観客に座られており、その2列後ろに携帯を見つめながら1人で座っていた。
「ほら、若利」
大平に促されて、俺は先頭を替わって客席横の階段を昇り天海の元へ行く。
「天海」
弾かれたように天海が顔を上げた。
「びっくりした。…結構、遅かったね」
話しながら天海が席を立って奥へと詰めた。
前後、どちらの列も空席だったが、混み合うことを考えて1列で座った方がいいと判断したのだろう。無言で後ろを見やると、大平が俺の言いたいことを察したようで、首を縦に振った。
「人に会っていた」
天海の横の席まで移動して、座りながら俺は言う。
「知り合い?」
「…広い意味では知り合いにあたる」
答えてから、逆にこちらも質問を飛ばす。
「お前の方は“先輩”たちとそれほど話し込んだりはしなかったのか?」
「そこそこ、だね。最後は逃げたけど…ありとあらゆることを聞かれそうになって」
「ありとあらゆること」
「悪意とかじゃなくて、本当にただの純粋な興味で聞いてくるんだよね。そこが、タチが悪い」
大きく重く嘆息した天海の横顔を俺は凝視する。
彼女は短い瞬きをして、垂らした髪を耳にかけた。隠されていた首の絆創膏が目に飛び込んでくる。
“…天海、四つん這いのバックとか背面座位とか好きだって”
ついさっき与えられた情報が脳裏を過ぎり、応えるように身体が疼く。
…確かに、あの“先輩”はタチが悪い。
俺は彼女ではなくコートを眺めることにした。
回り始めた思考はブロックを決めるがごとくシャットダウン。
「…でも、あの人の裏表のない性格、実は好きなんだけどね」
大事な秘密を打ち明けるような声音。
その告白に俺は何も言わずに横目で彼女を見やる。
浮かべられた微笑に魅入り…気づけば口角を上げていた。