第20章 冬の稲妻(1)
優勝。
その言葉を俺たちへ面と向かって言ってくるのも、宮城では及川くらいなものだ。
一歩間違えばただの傲慢。
だが、相手は東京代表…有言実行となる可能性がある。
俺の口端が緩んだ――面白い、と口に出したかもしれない。
「木兎さん、そういう台詞は井闥山相手に勝ってから言ってください」
木兎の斜め後ろから熱くなりかけていた空気を冷ますもう1人の東京代表、赤葦の声。
「赤葦…俺、いま、すげーカッコ良く決めたんですけど…」
「気のせいです。実績が伴っていないのを知っている俺としては、むしろ居た堪れない気分になりました」
「…エースのテンション上げるのもセッターの役目じゃない?」
「勝手にテンション上げすぎたエースをクールダウンさせるのもセッターの仕事ですね」
まるで台本有りきのようなテンポの良いやり取りに俺と大平は口を挟めず、天童は「強気ぃーなセッターは、だいたーい後輩ぃー」と歌っていた。
この、いつまでも続きそうなやり取りを打ち切ったのは俺たちに追いついた瀬見だった。
「お前ら、まだ客席行ってなかったのかよ」
驚きを言葉の端々に詰め込みながら登場。
天童が目と唇で弧を描いて迎え入れた。
「来った来た、先輩にも優しいセッター」
「なんだ、それ」
瀬見は怪訝そうな顔で天童を見てから、目だけで「こいつら誰だ?」と木兎たちの説明を求めてくる。
慣例のように大平が口を開いたが、絶妙なタイミングで、当事者であり話題の中心となるべき木兎の名前を呼ぶ声が場に割って入った。
合計12の瞳が一斉に同じ方へ向き、うち、状況を把握したらしい赤葦が「合流しましょうか、木兎さん」と、この稀有な邂逅にピリオドを打つ。
そうだな、と頷いて、あたかも古くからの知己に別れを告げるかのごとく片手を挙げて「じゃあ、春高で!」と告げる木兎の横、赤葦は最後もやはり軽い会釈をして、踵を返して去っていく。
「まー、随分と騒がしかったことで」
両手はポケットに突っ込んだまま、そんな感想を漏らした天童に俺は言う。
「お前がそう評すると、よほどのことに聞こえるな」
「えっ?」
目を点にして俺の顔を見てくる天童。
大平と瀬見は声を立てて笑い出す。
「よく言った、若利!」
「若利くん、そういうこと言う? ひどくない⁉︎」
天童の抗議を聞きながら、俺たちは雑談を交わして観客席へ向かった。