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【HQ/R18】二月の恋のうた

第20章 冬の稲妻(1)


直接対戦したことはない。

だが、試合は観たことがあった。
それを思い起こせたのは、近づいてきたこの“東京代表”がやたらと騒がしく、そういえば試合中も1点決まるごとにガッツポーズを決め、自分とは対照的だと感じていたのを思い出したからだ。

「なんで全日本インカレ来てんだ? 白鳥沢って仙台だろー!」
「木兎さん、初対面なのに挨拶も無しっていうのはどう考えても失礼です…」
「ちょっ! 赤葦! そういうのは話しかける前に言って!」
「…いきなり振り返って話しかけておいてなに言ってるんですか…」

周囲の視線を余さず集めてやってきた、台風みたいな男は「木兎」と呼ばれた。

…そうだ、木兎、だ。

珍しい苗字。
天童が特集画像を見ながら「牛と兎ねー」などと笑って話していたのだ。

木兎に付き従ってやって来た方――赤葦と呼ばれていた――は、俺たちを見るとすぐさま軽く会釈をした。
体育会系のよくある挨拶風景。
こちらは頷く程度で返す。

「じゃ、改めてだな…」
「そっちも試合観戦か?」

俺と木兎の声が重なった。
2人で視線を合わせ、お互いに相手の出方を探る。
結果として沈黙が広がり、こういった場合に大抵フォローに回る大平が慣れた様子で話し始めた。

「白鳥沢バレー部2年の大平だ。すまんね、うちのエースが挨拶も無しに。…昨日、井闥山が団体で来てたようだけど、そっちもバレー部全体で観戦?」

大平の低い物腰に、あちらは木兎ではなく赤葦が「梟谷1年の赤葦です」ともう1度小さく頭を下げてから答えてみせた。

「こちらこそ、突然すみません。うちは有志という形で来ています。無理矢理連れてこられた、と言った方が正しかったりもしますが」

黙って聞いていた天童が、ここで突然、俺の耳元に顔を近づけた。

「若利くん」

小声だ。
視線だけ天童に飛ばす。

「なんか賢二郎と同じニオイするね」
「…?」
「礼儀正しいけどたぶんキッツイ性格…セッターと見た!」

用を足しに行っている瀬見が聞いていたら一言どころか二言三言と反論が来そうな感想だった。

「牛若」

大平と赤葦の形式ばった挨拶の後、木兎が改めて俺に話しかけてきた。
面と向かってそのように呼ばれるというのは、実はそれほどない。及川くらいなものか。

俺に怯まず、むしろ勝気な笑みを浮かべ、眼前の男は言う。

「春高、俺たちが優勝もらうぜー」
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