第20章 冬の稲妻(1)
「そ、そういう質問はどうかと思います! 先輩だって、会長とどうだったのかとか聞かれたら」
「昨日? 2回ヤったけど」
明け透けな回答に天海が口を開けたまま言葉を失った。
「どういう体位で2回だったかっていうとねぇ…」
「おい、そろそろ黙れ」
思わぬ暴露に釘を刺したのは、悠然と俺たちのところへ歩いてきた“会長”だ。
当事者であり、かつ、純然たる被害者…になりかけている。
「他人の性癖に関わることをベラベラしゃべるな」
「聞かれたことを正直に話すのは私の長所だ」
「聞かれてないことまで話そうとしてたのがお前の短所だ」
「あれ、聞かれてなかった?」
「誰も聞いてない。回数も体位も。さらに言っておくけど、ここにいる誰1人として、知りたいと思っていない」
“会長”が冷然と言い放つ。
天海の話し方に似ているなと俺は思い、
(いや、逆だな)
と、すぐに思い直した。
“会長”が天海に似ているのではない。
天海が“会長”に似ているのだ。
きっと、天海が生徒会長に就くに当たって、「手本」としたのは彼だったに違いない。
昨日、眼前の“先輩”がしてくれた話を思い起こす。
“男バレのマネが、うちのと天海ができてるって馬鹿な噂立てて…”
――過去に流された噂の発端を垣間見た気がした。
「おい、天海が固まってるぞ」
「ホントだ。…なんで? 昔はこのくらい話していたはずだよねぇ…天海、四つん這いのバックとか背面座位とか好きだって――」
「先輩ッ‼︎」
とうとう大声を出した天海。
まるで子供が気に入らない言葉を聞いて声を張り上げるようだ。天海にしては何とも珍しい。
びっくりして眺めやりつつ、俺は頭の中で別のことに気をとられる。
四つん這いのバック。
背面座位。
「もう、しばらく先輩とは口ききません!」
きっぱりと言い切って、天海が“先輩”の抱擁から抜け出した。
そしてそのまま、俺たちにも背中を向け、1人で会場入り口へ足を向けてしまう。
「ちょっと、天海ー!」
慌てた“先輩”が後を追いかける。
俺の真横で“会長”が「なにやってんだか」と嘆息を漏らしてから「俺たちも行こうか」と自然に会場入りを促したので、俺たちは全員で天海の後を追って行った。