第20章 冬の稲妻(1)
昨日とは逆の道順で俺たちは会場へ向かった。
道すがらは、春高本選に出場する各県代表の話題で盛り上がった。
俺たち以上に情報通な天海が、特に注意すべき高校として挙げたそのほとんどが、インターハイでの上位校だった。束の間、インターハイの回顧に花が咲く。
天童は、移動中も隙をみては天海に際どい質問をしていた。
カフェで天海に平然と返されたことで「何とか動揺させたい」と躍起になっている――とは、天童に1番絡まれることの多い瀬見による推測。
自らの意思とは無関係に「受けて立つ」立場になってしまった天海は、天童の猛攻を余裕すら見せながら凌いでいた。
「ああいう言葉はね、川西くんの件の時に散々言われたりしたから…」
ちょっとやそっとのことでは動じないと、彼女はチェックアウト前の部屋で、俺の腕の中で笑って言っていた。
言われ慣れている――場数、という部分で天童は天海に劣っていた。だから、彼女を切り崩すことはできなかった。
では、場数が天海と同等、あるいは勝っていれば?
その答えは、会場で俺たちを待ち伏せていた彼女の“先輩”が示してくれた。
「天海ー!」
体育館の敷地に入った直後。
喜色いっぱいの声を上げて、走ってきたかと思ったら天海に抱きついたのは“先輩”だった。
「もー、遅い!」
「せ、先輩っ」
「会ったら聞きたいことが――あれ?」
両手で抱きしめた天海を一旦離し、上半身だけを何度も眺めた“先輩”は突然俺を睨め据えた。
「えっと…牛島クン!」
鋭いスパイクのような名指しの声。
反射的に身構える。
“先輩”は目を眇め、睨みながらも少し笑う。
「ねぇ、ちゃんと天海を気持ちよくさせてあげた?」
「先輩!」
「ん? だって、気になるじゃない。昨日と同じ服でー、首に絆創膏貼ってー、胸元もチラッと見えた限りやっぱり痕があってー」
「先輩ッ!」
「激しく抱かれた痕跡がこんなにたくさんあったらさ、天海をちゃーんと感じさせてあげたのかを、だねぇ…。で、牛島クン。何回ヤった? 何回イかせた?」
天海の叫びを無視した“先輩”の質問に、俺は隣の天童を見やった。
腕組みをした天童は
「完敗だねぇ…見習いたい」
と“先輩”から要らぬ感銘を受けたところだった。