第20章 冬の稲妻(1)
それにしても、と瀬見がフルーツをつつきながらながら話題を転じる。
「1泊2日なんてあっという間だな。来たばっかりなのにもう帰るのか、って気ィすんなー」
「移動時間よりも滞在時間の方が長いのがせめてもの救いだな」
大平の言葉に全員が一様に頷く。
日常のほとんどが仙台市内で完結している俺たちにとって、春高や遠征以外で東京に来る機会など滅多にない。
物珍しさで特別なことでも起こるかのように錯覚していたのだが、現実にはコーチの引率が無くなった事以外にはアクシデント的なことは起こり得ず…それが余計に、この2日間を短く感じさせているようにも思えた。
「仙台戻ったらまた練習漬けだよネー」
「1ヶ月後には春高だからな」
しっかりと頭の中に叩き込まれたスケジュールを瀬見が口にする。
そして、そのまま心の声をこぼした。
「次こそは優勝…してーな」
独白に、誰よりも早く食後のコーヒーを飲んでいた大平が「そうだな」と一言添える。
――全国常連校。
白鳥沢の男子バレー部はそう呼ばれて久しい。
事実、俺が高等部に進級してからも、インターハイ、国体、春高と3大大会は必ず全国へと駒を進めている。
“それ”が当たり前のようになっている俺たちに対して、求められていることは1つ。
全国優勝。
それ以外は評価されない。
強豪校に課された宿命。
「どれだけ強くなれば優勝できるのかねー」
「さぁ、な。ただ闇雲に強くなればいいって話でもないだろう」
大平が穏和だが厳格に断じて、俺もその意見に同調する。
「強くなければ勝利を手にすることはできない。だが、強くあれば必ず勝利を手にできるというわけでもない」
「強い者が勝つんじゃなくて、勝った方が強いって言うよね」
「昨日の試合、思い出すな」
本命の敗北。
「うちにさ、足りないものとかって何かねぇ」
「そのヒントを今日の決勝戦と3決で見つけ出してこい…っていうのが、今回の、俺たち2年の、この観戦ツアーの趣旨だな」
まとめた大平に全員が頷いたところで、皿のデザートを綺麗に食べ終えた瀬見が俺に目を向けて言う。
「若利、お前もさっさと朝メシ食えよ。俺ら、もうちょっとしたら部屋に戻っから」
「わかった」
頷いて席を立ち、パンと白米、どちらにしようかと考える。
この時はまだ、今日という日が俺にとって長い1日になることなど知らずにいた。