第20章 冬の稲妻(1)
「まーまー英太くん。誤魔化したり、隠しだてしないのが若利くんじゃなーい?」
天童が嬉しそうにそう言ってから、「4回かぁ…そんなにイってたら、そりゃ、しんどいとも言いたくなるよね」。
俺は、首を傾げて天童の誤解を指摘する。
「天童、お前の質問は単純に行為そのものの回数に関してだったはずだ。“天海の”回数に言及するならば、もっと多――」
「おはようございます」
話していた俺の言葉を強制終了させたのは、いつの間にか俺の背後まで来ていた天海本人。
少し引きつった笑顔を浮かべ、天海は無言になった俺たち男たちへ「今日もいいお天気ですね」と告げて、俺の向かいの席に座った。
「…ありさちゃん、朝から眩しい笑顔だね」
真っ先に時間を取り戻した天童が会話の口火を切った。
「のど飴、あげようか? 声、出しづらそうだけど」
「ありがとうございます。持っていますので、お気持ちだけいただきますね」
「いま、若利くんから聞いたけどさー、4回もヤったんだって?」
笑顔のまま、天海が瞬きをする。
「4回はさすがに辛いよね…でも、どう、若利くん、良かった?」
「天童」
「天童、お前、いい加減にしとけよ」
大平と瀬見が揃って天童を注意した。
だが、質問を受けた天海本人は、咳払い1つで、何事でもないように受け答えを始めた。
「…素敵でしたよ」
その、あまりにも平然とした台詞に、場の男たち全員が面食らう。
「彼が触れたところすべてが溶けてしまいそうで、朝なんて来なければいいと思えるほどでした。…もっと、どこがどう良かったか、具体的に言いましょうか?」
沈黙している俺たち1人1人の顔を順々に見つめて、誰から何もコメントがないことを確認すると、天海は作為的な笑顔を崩さずに立ち上がる。
「あ、私、朝食取って来ないと。すみません、席外しますね」
その圧倒的なまでの勝者の振る舞いに、立ち去る背中を眺めながら天童がため息をついた。
「…ありさちゃんって怒らせると怖いタイプだね、若利くん」
俺は振り返り、見た目的には颯爽と歩いている天海の後背を凝視しながら口を開いた。
「そうだな…俺はそれほど怒らせたこともないが」
「お前、それ言うなよ。彼女に本気で怒られるぞ」
瀬見がなぜかそんな忠告をした。