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【HQ/R18】二月の恋のうた

第20章 冬の稲妻(1)


試合観戦2日目は、ホテルのカフェで天童たちと顔を合わせたところから始まった。

「若利くん、おっはよー」

カフェの入り口にいる俺に、いち早く気づいたのは天童だ。話をしていた大平と瀬見も天童の声に釣られて同時にこちらを見る。

ホテルの人間にモーニングのチケットを手渡し、俺は彼らに声をかける前に傍らへと視線を走らせる――立っているだけでも怠そうな天海が俺を仰ぎ見た。

「…同席でもいいよ」

先回りした聡明な瞳が「それ以外の選択肢はないでしょ? 」とも物語る。
俺は頷いて、それから確認の意味でもう1つ。

「天海」
「ん?」
「腰がしんどいと言っていたが、1人で歩けるか?」

天海が、軽く瞠目した。

次いで、俺たちのチケットを手に持ちながら、インカムで何やら話をしているホテルマンを彼女は見やる。
そして再び俺へと戻ってきた瞳は、なぜか、少しばかり憤っていた。

「怪我じゃないから大丈夫です。先に行っててください」

やたらと丁寧な言葉遣い。
声質も硬い。

態度の急変に俺は戸惑ったが、理由を言うことすら拒む気配があった。
俺は彼女の言に素直に従って天童たちの元へ先に行くこととする。

カフェ内は、白鳥沢の学食のお昼時に比べれば、それほど混雑はしていなかった。
単にピークの時間は過ぎたのかもしれない。
モーニングは和洋折衷のバイキングだが、品名のプレートのみの箇所が幾つか見受けられる。

テーブルとテーブルの間を縫うように進み、俺は天童たちのところまで行くと、彼らの隣、4人用の席に着座した。

「若利くん、おはよ」

天童が改めて朝の挨拶をし、片肘をつきながらベーコンを刺したフォークを掲げて笑んだ。

「今朝は朝食抜きかと思ってた。寝不足デショ、2人とも。っていうか、体調、平気? 若利くんはともかくとしてさ、ありさちゃん、大丈夫?」

立て続けに放たれた言葉のどれを拾うべきか考える。
あまり黙り込んでいると次の矢が放たれるため、連続したスパイクをすべて拾う練習のつもりで口を開いた。

「寝不足であることは否定しない。体調に関しては、俺自身には何の問題もない。天海はしんどいと言っていたが」
「何回シたの」
「4回だ」

瀬見が飲んでいた水を噴き、
「お前、そこはお茶を濁せッ!」
と喚く。

いつもの朝のような気がした。
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