第19章 ★王者の休日(5)
「…こ…腰です…」
なぜか天海が畏まって言う。
具体的な箇所を聞こうとしたところで、彼女が身体を傾け、俺の肩というか肩甲骨の辺りに身体を預けてきた。
「若利くんが…すごい格好ばかりさせるから」
俺は小さく首を傾げる。
「天童から渡されたDVDを参考にした」
「天童さん…」
天海が唸った。
「天童といえば、天海」
俺は身体を捻った体勢を維持しつつ、首を伸ばすようにして天海を伺った。
そうでもしないと、寄りかかられたため顔が見えにくい。
「なに?」
「天童たちには聞こえていたらしいぞ」
何が、を言わなかった。
彼女も聞いてこなかった…代わりに、大きなため息を1つ。
「はぁぁぁぁぁぁ」
肺の中の空気すべてを吐き出したかのようなそれに、俺は思わず呟いてしまう。
「重い、な」
「若利くんが、それ、言う⁉︎ …あぁ、もう。明日、どんな顔して会えばいいの!」
「普段どおりで構わん。そういうことを態度に出す連中ではない、気にするな」
「気・に・し・ま・す!」
天海が掠れた声を抑えながらも叫ぶ。
理性的だが感情的。
矛盾しているようでいてその表現が誤りではなく正しいと思わせる絶妙な配分に、俺は頬を緩めた。
位置的に天海から俺の表情はほとんど伺えないはずなのだが、
「…若利くん、いま、笑った?」
という尖った言葉が返ってきた。
「いや」
「笑ったでしょう…! もう、こんなことになったのを少しは反省して!」
「反省? 何に対して、だ?」
「何に、って…」
勢い付いていた天海が口籠る。
だが、言葉にしなくとも不満を抱いている雰囲気は醸し出している。
声に漏らさないようにしながら、俺は目を閉じて胸の内から湧き上がるものを抑え込んだ。
理性的だが感情的――そして、実は意外に年相応よりも子供じみた一面がある。
どれが本物の天海か。
どれも本物の天海だ。
どれも、俺が惹かれる天海ありさだ。
「天海」
黙り込んだ彼女の名前を呼んだ。
彼女は温もりを預けたまま、返事をしない。
「ありさ」
今度は下の名前で。
「…そんな風に呼んでも、騙されないんだから」
憮然とした答えに俺は、今度は完全に笑声を噛み殺し、笑う。