第19章 ★王者の休日(5)
土曜の22時という時間は、東京という都会にとってみればまだ夜のうちに入らないのかもしれない。街同様の、煌々とした明かりを灯したコンビニは予想に反して賑やかだ。
適当な軽食を探して視線を走らせると「おむすびフェア」という貼り紙が目についた。
これが無難かもしれないなと、俺は梅、鮭、昆布と籠に放り込む。
…天海は何が好きなのだろうか?
好みを何1つ知らない自分に気づく。
(何1つ?)
いいや、確か、辛いものは苦手だと言っていた。辛子明太子はダメだ。
俺はしばらく悩んでから、自分が選んだものと同じものを1つずつ増やした。
飲み物はホテルに行く前に買っておいた手つかずのペットボトルがあるため購入は控え、そのまま会計へ。
買い物を済ませた後は他に立ち寄るところもないので真っ直ぐ部屋に戻った。
音を立てずに扉を閉め、サイドボードに袋を置くと俺はその場からベッドの天海を伺う。
コンビニに行く前と同じ姿勢。眠り込んでいる。
俺はソファに座り早速買ってきた梅むすびと鮭むすびを食した。
ミネラルウォーターも飲み、しばらく携帯を見ていたが…知らぬ間に眠りについていた。
――どのくらい眠ったか。
掠れ気味の鼻歌で目を覚ました。
時々、音が弾んで外れる鼻歌に誘われるように重い瞼を押し上げて、俺は部屋を見渡す。
ベッドの上、天海が胸元まで布団を引き上げた状態で体育座りをし、その膝頭に頬を預けてぼんやりとしていた。
俺は口を開く。
「…起きたのか、天海」
問いかけると、天海が頭を持ち上げて俺を見た。
「ごめん…起こした?」
「いや、自然と目が覚めた」
平気で嘘を言えた自分に内心で驚く。
「腹が減っていないか? 食べる物を買ってきてある」
俺は席を立ち、コンビニの袋を持って天海の元へ行くと、ベッド脇のサイドテーブルに袋ごと置いた。
「好きなものを選べ。…しんどいか?」
天海の傍に腰を下ろしながら尋ね聞く。
たくし上げた布団に隠された胸元がちらりと見えた――病人のような、何箇所もの赤い斑点が目に付く。
「しんどいです」
嘆息交じりの言葉からは非難の色も強く、俺は詫びるつもりで彼女に詳細を訊く。
「身体のどこが最もしんどい」
「…えっ」
天海がはっきりと返答に詰まった。