第18章 ★王者の休日(4)
息を詰め、襲うように去来した波をやり過ごすと、俺は繋がった状態で天海に近づいた。
耳打ちするように話しかける。
「天海…お前の言葉と気持ちは、受け取った。今度は、俺の番だ」
「…んっ…」
「川西にも、こうやって抱かれたのか…?」
息を飲む気配を感じた。
「川西ともこうして何度となく肌を重ねたのか?」
答えはわかりきっていた。
それでも、あえて聞いた。
曖昧なままにしておく理由が見当たらなかったとでも言うべきか?
…いや、違う。
“川西くんが私のすべてだった”
はっきりさせたいのだ、俺は。
一時であろうが、天海という存在のすべてを、あの男が支配していたのか、ということを。
「昼に、俺はお前のことをすべて知りたいと言った…それは覚えているか?」
「…覚えてる」
「ならば答えろ、天海」
「…若利くん…私っ…」
「お前にとって川西は“過去”であることは理解している。だから、奴とのことを聞くのはこれで最後にする。お前は川西に、こんな風に抱かれ…求め、喘ぎ、むせび泣き…何度となく果てていたのか?」
天海が口を閉じる。
俺は彼女を見つめる。
まぐわった瞳に躊躇いの影。
そこから俺は目を離さない。
逸らしは、しない。
「…抱かれて…いたよ…」
やがて天海がぽつりとそう言った。
俺は、1度だけ瞬きをした。
「天海」
一拍置いて、断じる。
「お前は、俺のものだ」
その言葉を合図とした。
俺は彼女の脚を押さえる手に力を込め、激しく腰を打ち始めた。
「あっ…わか、あっ! あぁん、やぁ、あんっ!」
喉を枯らさんばかりに天海が叫ぶ。
仙台のホテルでも、天海の身体に囚われて、俺は彼女を激しく抱いた。
だが、あの時と違い、いまは…天海の身体に溺れたいわけではない。
天海を、いま、俺は――壊してしまいたい。
天海の身体が覚える川西の記憶を無くしたい。
俺は、川西に“負け”たくはない。
「んぁっ、はぁ、あぁ! は、あっ、あぁっ!」
天海が喘ぎながら首を左右に振る。
過呼吸のように激しい息遣い。
飲み下せない透明な雫が口端から顎を伝い、首に跡を残してシーツへ吸い込まれていく。
誘われて、穿ちながらまたキスをする。