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【HQ/R18】二月の恋のうた

第17章 王者の休日(3)


観客席に戻るや否や、予想していたことだが、天童が口端に笑みを刻んで俺たちを茶化してきた。

「結構時間かかったねぇ…チューでもしてた?」

仙台市体育館でのことを暗に示している。
天海が顔を赤らめた。
俺はそれを視界に収めてから、口を開く。

「していない。さっき、そこで会ったばかりだ」

座席に腰を下ろす俺たちを顧みながら天童が「あっ、そ」と味気ない返事をする。天童は天童で、その返しを予想していたに違いない。

「…若利くんって、ホント、動揺とか無縁だよね。びっくりすることってあるの?」

不意に、天童がそんなことを聞いてきた。
大平と瀬見もこちらへと振り返る。

「若利、お前、夏に寮で蛾が出た時に固まってなかったか?」
「…あれか」
「覚えてたか…」
「聞いておいてそれはないだろ、瀬見」
「あれは、どう対処すべきか考えていた」
「え、そうなの? 俺、蛾と会話してたのかと思った」
「お前はたいがい失礼だな」
「天童は蛾と会話ができるのか?」
「できないよ。英太くんじゃあるまいし」
「そうか、瀬見はできるのか」
「間に受けるな!」

瀬見が憤ったところで、左腕に振動が伝わってきて隣を盗み見る。
天海が顔を背けながらも抑えきれずに肩を震わせていた。

それから10分ほど後に、AコートとBコート、同時に準決勝を開始した。

俺たちは大本命が登場しているAコートを食い入るように見た。主目的は試合観戦なのだ。
ただ、その大本命はチームの歯車が上手く噛み合わず、この準決勝で姿を消す結果となった。この番狂わせは、俺と天童、どちらにとっても予想外だったのは言うまでもない。

「トスワーク、ちょっとワンパターン過ぎたな」

まだ続いているBコートの試合を遠目で眺めながら、瀬見が感想戦を始める。

「真ん中、もっと使うべきだったな」
「積極的に使うほど調子良くなかったでしょ、ミドルも」
「サーブレシーブがもっと安定していれば行けたんじゃないか」
「割合上げてたじゃん」
「上げていただけだよ…山形が見ていたらもっと言っただろうさ」

思い起こしながら3人はそれぞれの意見を述べる。
途中から、今のBコートの試合の感想も。
皆、真剣だ。

俺自身も感じたことを言おうとした、その時に――

「若利くん…試合後って、何か予定ある?」

天海が話しかけてきた。
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