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【HQ/R18】二月の恋のうた

第16章 王者の休日(2)


“先輩”との話を終え、観客席に戻ろうとサブアリーナの前を歩いていると見慣れた人物がやってきた――天海だ。

「先輩に捕まってた?」

俺は答えを顔に出した覚えはない。
が、彼女はすべてお見通しとばかりに苦笑し、
「ホント、先輩って口軽いんだから」
と言った。
その後で「心配してくれてのコト、ってわかってるけど」とも。

天海は、その場所で俺から詳しく話を聞くつもりはないようで観客席へ移動を始める。
俺は半歩後ろ、会話に支障のない位置で彼女の後を追うように歩き出した。

「先輩、若利くんになに話した? 川西くんと別れた理由? 別れた後に倒れた話?」
「両方だ」
「両方かぁ」

概略しか聞いていないが、その注釈をする前に天海が言葉を継ぐ。

「本人が話していないことを話すなんて反則だよね…話すんだったら、本人が全く知らない、知りえないところで話して欲しいなぁ――若利くん」
「なんだ?」
「付き合う前の私のこととか、知りたい?」

階段を上り終わり、アリーナが見下ろせる1階に出た。
視界が開ける。
ボールの弾む、心地良い音が世界に満ちる。

俺は立ち止まっている天海の前へと先に出る。

「あぁ。お前のことはすべて知りたいと思っている」
「…知らない方がいいこともあるんじゃない?」

問い返されて、しばし考えてから答えた。

「俺は、お前の考えていることを知りたいと思う」

俺は天童たちがいる座席へ向かって歩き出した。
後から気配が付いてくることも感じながら。

「考えというものは価値観に基づく。その価値観というものは今日、明日に出来上がるものではない。過去の経験や環境などによって作り上げられる」

俺は歩みを止めて首を巡らせた。
俺を仰ぎ、付いてきていた天海も足を止める。

「天海、俺はお前が好きだ。お前の好むことはしたいと思うし、好まないことは避けたいと思う。そのために、今、この場にいて、俺とこうして話をしているお前が何をどう考えているのか、どう思っているのか。それを俺は知りたい。だから、お前のことを、過去も含めてすべて知りたいと思っている――答えになっていただろうか?」

天海の真っ直ぐな眼差しを、俺も、真っ直ぐ見返した。

「俺にとって最も重要なのは、天海、常にお前の気持ちというやつだ」
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