第16章 王者の休日(2)
会場内に入ると、ざわめきと熱気が押し寄せてきた。
「思っていたよりも入ってるな」
率直な感想は大平から。
ここまで行動を共にしている“会長”が「そうだね」とわざわざ相槌を打つ。
「準決、3決、決勝はそれなりに入るよね。…じゃあ、俺たち、買ってきたお昼食べるからこの辺で」
彼は解説と別れの挨拶を同時に告げると“先輩”に顔を向けた。
天海と話し込んでいた“先輩”は、アイコンタクトで会話を終わりにさせた。
「またね、天海。推薦の結果出たら教えてね!」
「連絡します!」
「あと、もうちょっと、ちゃーんと食べるように! そこの彼氏クンが喜ぶ、抱き心地のいーい身体にならんと!」
「せ、先輩ッ!」
天海が、非難を声に出す。
それを笑い流して“先輩”は去って行ったが…寸前に俺に何か言いたげな視線を送ってきた。
いつもであればさして気にも留めないのだが、先ほどの“会長”の奥歯に物が挟まったかのような話しぶりが、彼女の行動に対して神経を過敏にさせている。
(試合後にでもそれとなく探してみるか)
何か話したいことがあるならば、また向こうからやって来るだろう…そんな風にも思った。
俺たちは連なって歩き、各校の大応援団が集ったスペース以外に適当に座る場所を探す。
途中で、天童が「あっ」と声を漏らした。
何事かと全員で視線の先を辿ると、見たことのあるジャージの一団がいた――俺たち同様の、全国出場の常連校・井闥山学院だ。
「バレー部総出で観戦かよ」
瀬見の独白は驚き半分、呆れ半分。
大平は逆に、感心した様子で笑った。
「都内なら交通費と入場料だけだからな」
足を止めず、俺たちは、東京という場所の恵まれた環境について話しながら会場の中段近くを選んで座った。
前列が大平、天童、瀬見。
後列に俺、天海。
配置は天童の指示。
「1列に座らないんですか?」
と問う天海に対して、
「この方が、ありさちゃん、若利くんとイチャイチャできるでしょ?」
と天童が答え、天海自身から「しませんから!」という雷を落とされていた。
そのやりとりに大平と瀬見が笑う。
普段の部活の時にも同じような会話が繰り広げられているが、今日のは少し違う。
今日の中心には天海がいる。
それは不思議と、少し安堵する光景だった。