第16章 王者の休日(2)
天海が「先輩」と呼んでいる女性は、外見だけでいうとまるで男のようだった。
俺と似たような髪型、襟のついたシンプルな長袖シャツにスリムなジーンズという格好、極め付けはその長身。
天海より10cmは高い。
胸の起伏を含めた女性特有の身体全体の丸み、それがなければ、パッと見は「久々に会った恋人同士の再会」にしか見えなかった。
天童が「嫉妬」などという言葉を持ち出したのはそのせいだろう。
俺は、こちらを見やる天童を無言で一瞥した。
いくら俺でも、彼女の“女同士”の抱擁を受け入れられないほど狭量ではない。
「卒業してから冷たいッ! 連絡寄越せ! 来るってわかっていれば!」
「――わかっていたらどうしたって言うんだよ」
天海の腰を抱きながら、笑いつつも責める女性の言葉を、やってきた男が穏やかな口調で遮った。
男は、ちらりと俺たちに視線を寄越すとそのまま目礼した。
身体つきと雰囲気で何となく察する――同類だ。おそらくは、バレーボーラー。
彼は女性の頭を軽く握った拳でコツンと叩く。
天海を抱きしめていた手を離し、“先輩”がおどけて舌を出す。
不思議なことに、その一瞬で、今まで男のようだった彼女がどこからどう見ても女にしか見えない柔和な空気を纏った。
「久しぶりだな、天海」
「会長もお元気そうで」
「その呼び名で言われたの、久しぶりだな。えっと、そちらは…」
落ち着き払った様子で男が俺たちを話題に入れる。
如才ない、という言葉が脳裏に浮かんだ。何となく、普段の天海を彷彿とさせる。
「もしや、私の可愛い天海の彼氏とかいるわけ? 誰がそう?」
両手を腰に当てて、笑いながら女性が俺たちを値踏みする。
俺たち3人は全員何も言わなかった。
それでも、俺は、天童と瀬見の視線を感じた。
「彼です」
天海は、静かに言った。
「牛島若利さん…彼が、私の彼氏です」
俺の方が年下であるにも関わらず「さん」という敬称を用いた天海が、俺のことを「私の彼氏」と断言した。
俺は、思わず天海を見つめて口を開く。
「逆だ、天海。――お前が、俺の女、だろう」
「えっ…」
俺と目を合わせた天海が言葉に詰まった。
対象的に、彼女の横で“先輩”が豪快に笑声を上げた。