第16章 王者の休日(2)
降車駅から人の流れに乗る形で歩くこと約15分。
俺たちは目的地に着いた。
「思っていたよりも大きなところだな」
会場を一望した大平がそう評する。
まだ試合開始まで余裕のある時間帯だが、開場が始まっているからか、予想していたよりも人出は多い。
男女の比率は半々…いや、女性の方がやや多いか。立ち止まっている俺たちの横をいま正に通って行ったのも3人の女性だった。
「入口、こっちです」
電車内での動揺から今やすっかり立ち直った天海が、まるでこの大会の関係者のように整然と俺たちを先導する。
「特に用もなければ、なかに入りましょう」
言われて俺たちは揃って首を縦に振る。
外が寒いわけではないが――仙台と比べると東京はやはり12月に入っているとは思えない暖かさで、薄着で来て正解だったと、ついさっき天童が話していたばかりだ――、わざわざ屋外にいなければならない理由が俺たちにはなかった。
だが、それぞれにチケットを取り出したところで、大平が片手を挙げて天海を制止し、携帯を取り出した。
着信のようだ。すぐに携帯片手に話を始めた。
「鍛治くんからかなぁ?」と天童が推察する。
「だといいけどな」と瀬見が受け答えた。
俺たちに背をむせて大平が話し始めたので、ひとまず全員で“待ち”の姿勢となった。
「天海!」と予期せぬ方向からの声がかかったのはその時のこと。
大平を除く全員が、声がしてきた方向へ向き直る。当然、俺も。
俺たちが歩いてきた方向とは逆側の道路からやってくる1組の背の高い男女、そのうちの女性が大きく手を振っていた。
「先輩!」
俺の隣で天海が歓喜の声を上げる。
その声のトーンの高さに、俺は目を見張って思わず天海を見やった。
「ちょっとちょっとちょっとちょっと! 天海ー! なんでいるのー! 来るなら連絡くらい寄越せー! びっくりしたじゃん!」
徒歩を最後は全力ダッシュに変えて俺たちのところへやってきた女性が、明らかに興奮した素振りでまくし立てたかと思えば唐突に天海に抱きつく。
「せ、先輩っ! 激しすぎます!」と天海が返す。
その口調は驚きに満ちていたが、隠しきれない喜びも表していた。
「若利くん…嫉妬しちゃだめだからね」
見守るだけの俺に、横で、天童が小声で呟く。