第15章 王者の休日(1)
東京に来るのは初めてではないが、来るたびに、なぜこれほど人がいるのだろうかと毎回同じことを思う。
ホームから辺りを見回す俺の傍らで、引率者は
「空いてる方だよ」
となぜか胸の内を見透かしたことを言う。
電車接近のアナウンスが流れ、1人、路線図を眺めていた天童が俺たちのところに戻ってくる。
「若利くん、電車に乗ったらありさちゃんをぎゅーっとしないと、ぎゅーっと。痴漢が出たら大変」
俺は横目で天海を見やった。
入線してきた電車が起こす風に煽られて、天海のポニテが僅かに揺れた。
「だ、大丈夫! 今、混んでないし! そうそうないし!」
必死に言い繋ぐ天海の斜め後ろで俺をけしかけた男が「青春だねぇ」と飄々と言った。
降車客を避け、俺たちは天海、俺、天童、瀬見、大平の順に乗車した。
空席は虫食いの状態でちらほらと。
大平が「天海さん、座ってください」と気を利かせたが、天海は「そんなに長い時間じゃないですから」と断った。
だが、彼女も次の駅に着く頃には、自分の判断が誤りだったと感じたらしい。
乗降口に固まって立つ俺たちを乗客たちがちらちらと盗み見てくるのだ。顔を寄せて何かを話す者もいる。
俺と天童、大平が身長180cm超。瀬見にしても180cm弱。
――日常では気にもならないが、交通機関を利用すると大抵が“こう”なる。
「…分散すっか?」
吊革ではなく吊革をぶら下げたバーを握りながら瀬見が聞いてきた。
「んー…今さらじゃない?」
「天海、座ったらどうだ」
「…天童さんじゃないけど、今さらだと私も思う」
自分に言い聞かせているような口調で天海が言った。
俺は彼女の選択を受け入れ、会話ついでに顔を合わせた時から気になっていたことにも言及する。
「天海」
返事がくるより早く、目の前の天海の耳朶に触れ、そこを彩る小さな花の飾りを撫でた。
「…っ」
「ピアス…いや、イヤリングか? 似合うな」
俺を仰ぎ見る瞳が羞恥と怒りに染まる。
少し触れただけなのだが、どうやらアウトだったようだ。
詫びようとしたところに、天童の独り言。
「ふーん、ありさちゃんって、耳、弱いんだー」
「――天童さん!」
車内にも関わらず、天海が声を荒げた。