第9章 家光様の帰城ー三日目・夏津ー
言葉の意味を考える間も無く、
「今日は湯殿係、きっちり務めさせてもらうぞ。」
夏津はそう言って帯を解き始める。
「やだっ、な、夏津っ、やめて!」
逃げようとしても、夏津の力にはかなわない。
「いやぁっ 」
夏津は黙って私の着ている物を剥いでいく。
襦袢だけになると、手首を掴み洗い場へと引っ張られていった。
「夏津、痛いよ。」
私の抗議を無視して襦袢も脱がされ、裸にされた。
「隠すなよ。」
恥ずかしくて身体を覆うようにした手を払われる。
「洗ってやるから、そこ座れ。」
抵抗しても無駄な気がしてとりあえず座る。
結いあげた髪をほどいていく夏津の手は意外と優しくて、恐怖心が少しだけ和らぐ。
丁寧に櫛で梳いてくれて、なんだか気持ちいい。
「家光様、帰ってきたね。」
「そうだな。」
「夏津、どうするの?」
「どういう意味だ。」
「鷹司が正室になっちゃったよ。
残念だったね。」
「おまえもな。」
意地悪な話題を振ったつもりだったのに、矛先がいきなり自分に向いてびっくりする。
「なんで私が残念なの。」
「気づいてないとでも思ってんのか?
相変わらずおめでたいやつだな。」
私は大奥で「鷹司が好きです」って背中に張り紙でもされてたのか?!
なんでこんなにみんなに気づかれてるの……。
「まぁ、俺は残念だけどな。」
きゅっと髪を絞って、簡単に一つにまとめながら夏津が言った。
「正室になりたがってたもんね。」
「そっちじゃねえよ。
おまえがいなくなることが、残念だって言ってんだよ。」