第7章 家光様の帰城ー初日・火影ー
泣かない。
そう思って、口を引き結んだ。
でも火影の手が髪を撫でて、あやすように背中をポンポンとした時、その手の優しさについに涙が溢れた。
「うっ……火影…っ。」
しゃくり上げるように泣き出した私を、火影は何も言わずに抱きしめてくれた。
「ごめっ、火影の服、びしょびしょになっちゃった。」
胸を借りてひとしきり泣いた後でそういうと、
「俺なら、こんなに泣かせたりしないのに。」
火影は真剣な顔で私を見つめて言った。
そして私の頬に手を沿え、まだ少し濡れている肌を親指で拭うと、そっと唇を重ねた。
「紗代様、俺じゃだめ?」
唇を離すと、驚く私にそう告げた。
「な、んで……。」
突然のことに、火影の唇が触れたところを指で押さえながらそんな言葉しか返せない。
「俺だって、紗代様のことずっとお慕いしてたんだよ。」
火影は少し熱のこもった目で私を見つめ続ける。
「紗代様の目に他の人が映ってるのは気づいてたけど、それでもよかった。
いつか、紗代様が幸せになってくれれば、それでいいと思ってた。
でも、その可能性がなくなったのなら……」
腰を引き寄せられ、唇が再び近づいてきた。