第7章 家光様の帰城ー初日・火影ー
「紗代様、ちょっといいかな。」
夜の総触れの刻限が過ぎた頃、部屋でそわそわしていると火影が訪ねてきた。
「落ち着いて聞いてね。」
声を出さずに頷く。
「鷹司様が御鈴廊下で御声がけされたみたいだよ。」
膝の上に置いていた手をギュッと握る。
鷹司が指名された……。
家光様、なんで?なんでよりにもよって鷹司なの?
「紗代様、大丈夫?」
いつの間にかすぐ側に来ていた火影が、私のきつく握りしめた手の上にそっと手を重ねた。
「今日から1週間、家光様の部屋で二人で過ごすこと、だそうだよ。」
そんなに?
私はもう鷹司には会うこともできないのかな……。
涙が滲みそうになり、歯をくいしばる。
「紗代様の心の中にいる人が誰か、俺知ってるよ。」
え、と顔をあげて火影を見る。
「忍びの観察眼が無駄に発揮されちゃった、ってとこかな。」
火影はそう言って自嘲気味に笑うと、手首をぐっと引っ張り私を腕の中に閉じ込めた。
「泣いてもいいよ。」