第7章 家光様の帰城ー初日・火影ー
「家光様がお戻りになり、正室のご指名をされることになった。」
急に春日局様に呼ばれたと思ったら、そう告げられた。
「上様がどこまで本気かわからないが、本来の役目を果たしていただけるのならこちらとしては異論はない。」
「あ、あの、じゃあ私は……。」
喉がカラカラになってうまく声が出せない。
「また気まぐれのお戯れでは困るからな。
貴方はもうしばらく城に滞在し、成り行きがはっきりするまで待機していろ。
今後のことは決まり次第、追って沙汰する。」
「指名される方は決まっていらっしゃるのですか?」
「誰なのかは私も知らないが、今夜、御鈴廊下で声を掛けられるとのことだ。」
影武者となって大奥に出入りするようになった私を、始めからずっと優しく支えてくれた人。
私はその人に恋をしている。
もともと、この恋が叶うとは思ってない。
私は影武者だから。
でも気持ちを伝えるくらいしたかったな。
せめて、その人が指名されなければ……。