第25章 消さないでー佐助ー
「なんでここに?」
もう誰も部屋にはいないと思うんだけど、なんとなく小さな声で尋ねてみる。
「あの雰囲気を邪魔されたくなかったから。」
こともなげに佐助くんは言った。
どういう意味だろう……。
とりあえず、佐助くんがとても近くて動けない。
「紗代さん……いい匂いするね。」
ふいに言われてドキっとする。
「お、お饅頭の匂いじゃないかな?」
さっき、食べさせ損ねたお饅頭はまだ私の手の中だ。
「確かに甘い匂いだけど……。」
何を言い出すんだろう。
お饅頭に負けないくらい甘い雰囲気になってきた気がして、とっさに手に持っていたそれを佐助くんの口に放り込んだ。
佐助くんは動じることなくお饅頭を飲み込んで平然としている。
「ごちそうさまでした。」
「……。」
そろそろ出ませんか?
と、言おうとしたとき、目の前の佐助くんからもいい匂いがした。
「あ、ねぇ、佐助くんもいい匂いするよ。」
「え……?!」
なんでだろう?すごく驚いてるけど。
「どんな匂い?忍びとして全ての匂いを消してるはずなんだけど……おかしいな。」
「どんな匂いって言葉で説明するの難しい。
でもなんかいい匂いだよ。」
確かに、佐助くんの忍び装束から香りがしたことってないかも。
謙信様とか、信玄様は香を焚きしめているのか、独特な香りをさせてるなって思うことあるけど。
じゃあ、このいい匂いは佐助くんの匂い?
ちょっときゅんとする匂い……。
「紗代さん、知ってる?
いい匂いだと感じる人は、遺伝的に自分から遠い人なんだ。」