第21章 過ぎ去りし時 ー秀吉ー
「なんで泣くんだ。」
部屋につくと開口一番、秀吉さんが言う。
「泣いてないです。」
「じゃあ、ちゃんと俺の目を見ろ。」
見られないよ。
こんな顔見せたくない。
「紗代、何かあったのか?」
私は一つ息をついてから、口を開いた。
「……今日、帰り道で秀吉さんを見ました。」
「え。」
「あの女の人、誰ですか?」
一度話し出したら、燻っていた想いが止まらなくなった。
「昔の、恋人、とかですか?
あんな風に触らせて、ただの知り合いじゃないみたいでした。
あのお団子だって、好きな人と食べると恋が叶うって噂のですよね?
あの人と一緒に食べてるところ見たんです。」
ここまで一気にまくし立てた。
「ちょっと、待て。
落ち着け。」
私の様子がおかしい理由が飲み込めてきたのか、秀吉さんは穏やかな声で続けた。
「まず、団子は食ってない。
無理やり食べさせられそうになったけどな。」
あ、そうなんだ。
最後まで見なかったから……。
「あと、あの女とは……昔そういう関係を持ったこともある。」
馬鹿だなぁ、私。
自分で質問したくせに、勝手に傷ついてる。
秀吉さんは私が聞いたから、正直に答えてくれただけなのに。
「やっぱり、そうなんですね……。
私、このお団子秀吉さんと一緒に食べたいと思ってたのに、あんな場面に出くわして、動揺したんです。」
秀吉さんが訝しげな顔をした。
「おまえの恋は、もう叶ってるだろ?」