第17章 千夜一夜物語 ー信長ー
私はくまたんを信長様に渡して、側に座った。
難しい顔で、くまたんを見つめている。
似合わない……似合わないよー!
笑いを堪えるのが辛い。
これは計算外だった。
「撫でてみてください。」
信長様がおそるおそるくまたんの頭を撫でる。
「貴様の言っていたもっふもふと言うのはよく分からんが、これはたしかに気持ちのいい手触りだ。」
信長様の口からもっふもふなんて言葉が聞けるなんて。
「中にふわふわの綿がつまっているので、弾力も楽しめますよ。
押したり、つまんだりするとわかります。
なんならぎゅって抱きしめてみてもいいですけど……しないですよね。」
信長様は少し考えたあと、くまたんのほっぺたをつまんだり両手で押したりし始めた。
子供みたいで可愛いなぁ……。
そう思ってほのぼのしながら信長様とくまたんを見ていると、突然信長様の手がこっちに伸びた。
「ひょっ!やめれくらはい!!」
なぜかほっぺたをつままれた。
「貴様の頬もくまたんに負けぬくらい柔らかそうだと思ってな。」
「よっ、夜伽はしない約束ですっ!」
つねられた頬を押さえながら反論する。
「触れないという約束はしておらん。」
だからいいだろう?という顔で私を見下ろしている。
確かにオサワリ禁止はしてない。
油断してた。
信長様は懲りずに、私の髪を撫でる。
「なっ、んですか……。」
少しだけドキドキしてしまう自分が腹立たしい。
「くまたんよりも貴様のほうがずっといい触り心地だ。
……また近々夜伽を命じる。
俺を楽しませられなかった時は、褥を共にする覚悟をしておけ。」
「一方的で理不尽ですけど、どうせ異論は認めてもらえなさそうなので……がんばります。」
「もう今宵は下がっていいぞ。」
「………… 」
「なんだ。」
「くまたん、一晩お貸ししましょうか?」
下がれといいながら抱えたくまたんを離そうとしない信長様につい言ってしまった。
「貴様がそう言うなら借りておいてやろう。」
ちょっと嬉しそうなんだけど。
やっぱり可愛いな。
思いの外作戦が成功した!
次はどうしようかなと考えながら、私は自室へ戻った。