第10章 家光様の帰城ー四日目・鷹司ー
空が白んできた。
気だるい空気を二人で持て余している。
「そういえばこれ、なんでつけてんだ?」
耳飾りを触りながら聞いてみた。
「これ明日持っていかせてもらえるかわからなかったし、つけて寝たら夢ででも鷹司に会えるかなって思って。」
「ふーん。」
って冷静に相槌打ったけど、内心すげぇ嬉しい。
「ねぇ、これからどうするの?」
「二人で逃げ出すか。」
「もう夜も明けちゃうよ。
私は鷹司とは身分の差が天と地ほど違うし、ほんとなら……」
紗代が言いかけた時、襖越しに声がした。
「ならば、釣り合う身分になればよかろう。」
「い、家光?!」
声の主は確かに家光だ。
「話し声がしていたから、もう起きているのであろう?
それとも、寝てないと言った方が正しいか。」
家光は含み笑いをしながら言った。
「なんでここにっ」
「鷹司、おまえ抜け出すのが遅いわ。」
「え?」
「三日もかかるとは思わなかったんだがな。
紗代、おまえには辛い思いをさせて悪かった。
おまえたちがどうやらお互い思い合っているらしいことは、麻兎からの報告で聞いていた。
一向にまとまる様子がないから、一芝居打たせてもらったぞ。」
「なんでそんなこと……?」
「私はもうここには戻りたくないのだ。
城下の暮らしが気に入った。
紗代、おまえ本物の家光になる気はないか?」