第8章 Shall we?〜岩泉一〜
半ば無理やり連れてこられた中庭のベンチ。
練習着のままの俺と制服の小鳥遊。
「…誰目当てで来たんだ?」
「え…?」
座るなり話を切り出したからか、小鳥遊が
目を見開いて泣き出しそうな声で問う。
「言わないと、だめ?」
短い茶髪が風に揺られて、香水の甘い香りが
俺の鼻をくすぐる。
「だめじゃねえけど…気になったから」
「なんでそんなこと聞くの?」
「気になったから」
「なんで?」
目に涙を溜めて俺を見る小鳥遊。
透明の雫に俺が映る。
「岩泉くん、そんなこと聞いてどうするの?」
声が震えている。
小鳥遊が軽く鼻をすすると、その振動で
涙が落ちた。
「私を困らせたい?」
クラスで見ている小鳥遊との違いに戸惑う。
いつも爽やかで明るくて綺麗で可愛くて、
笑うと周りが照らされたみたいになって。
でも今ここにいる小鳥遊は違う。
俺に怯えてて俺を怖がってて戸惑ってて、
全身で俺を拒否している。
「…そうじゃねえよ」
小鳥遊の制服のスカートに涙が染み込む。
「使うか…?」
ポケットに入れていたタオルを渡そうとしても、
「いい」
ブレザーの袖でむちゃくちゃに拭って
目元を真っ赤にして俯いた。
「…文化祭」
「…ん?」
「楽しみだな」
「…うん」
「戻れ。二人で戻ってお前が泣いてたら
怪しすぎる」
「…部活頑張ってね」
黒いローファーのヒールがカランと鳴って
臙脂色のレンガ敷きの中庭を駆けていく。
細い髪が日の光を浴びて走るたびに透ける。
「何してんだ俺…」