第2章 happy jewel
――失敗した。唯は今すぐ舌打したい気分だった。
ジンよりも早くお宝に近付こうとしたのに、これではお宝の場所すらわからない。
しかも四六時中この二重人格さながらの女主人のそばにいなければならない。
こうなったら、夜中、主人が寝静まってからこっそり館の中を探索するしかなさそうだ。
ジンは唯に宿で待っていろと言った。
ということは今日中に事を済ませるつもりなのだろうか。
でももし探索途中で一度宿に戻り唯がいないことに気付いてしまったら……。
(お願いだから早く寝て!)
唯は女主人の背中を見つめながら心の中で叫ぶのだった。
そして、日が落ちた頃だった。
俄かに館内が騒がしくなった。
「何かしら……まさか」
女主人の目つきが険しくなったその時だ。
バンっと部屋のドアが開かれた。
「何者かが、館内に入り込んだようです!」
「何ですって!?」
「!?」
婦人と唯は同時にそれぞれ違う意味で青ざめる。
(やっば! ジン来るの早過ぎ!)
「わかったわ。下がりなさい」
「いや、しかし」
「下がりなさい!!」
「は、はい!」
女主人に厳しく言われ、侵入者を伝えた男は慌てて部屋を出てドアを閉めた。
婦人はすぐに部屋のすみにある書棚の前に行き、ある一冊の分厚い本を抜いた。
そしてその奥に手を差し入れた。……何かスイッチか何かがあるのだろうか。
するとガタンと音がして書棚がゆっくり横にスライドしていった。
目を見開く唯。
(隠し部屋……?)
書棚の下になっていた絨毯を捲ると、そこには小さな扉があった。
婦人がその扉をゆっくり持ち上げると、地下へと続く階段が現れた。
「ついてきなさい」
「あ、はい」
唯は階段に足を踏み入れた婦人に戸惑いながらも答える。
(お宝のトコ……だよね。ってゆーか、どうしよう。ジン達こんな隠し部屋すぐ見つけちゃうだろうし……。今のうちに逃げる? ……ううん、ジンより早くお宝を手に入れるチャンスじゃない!!)
唯はいろいろ考えを巡らせながらも、婦人についていった。