第2章 happy jewel
そこまで思い出して、唯はぽつり呟く。
「なんか……だんだん腹立ってきた」
朝起きて本当に置いて行かれたのだとわかったときは、ただ寂しさと悲しみでいっぱいだった。
それが時間が経つにつれ、怒りの感情に変わってきてしまった。
「よし。決めた」
唯はその言葉とともにガタンと椅子から立ち上がる。
「私は私でお宝ゲットしてやるんだから!」
そう意気込む唯の目は、まだジン達と出逢う前、王ドロボウにライバル心を燃やしていた頃の目と同じだった。
唯はまず情報収集から始めた。
ジンはいつもどこからかお宝の情報を手に入れてくるが、唯には地道に情報を集めるしか方法がない。
だが比較的早く情報は手に入った。
この都一番の大金持ちの館に「幸福の石」というお宝があるらしい。
その「幸福の石」はそれ自体に魔力があり、持ち主の願いを叶えてくれるという。
そして昨夜、王ドロボウから予告状が届き、その館の女主人が焦っていると、街中では専らの噂になっていた。
「ほら、そこにも貼ってあるだろ? 『腕に覚えのある者急募』ってさ。あそこの女主人も盗まれないように必死なのさ」
出店の主人が向かいの建物の壁を指差す。
先ほどこの店で買った果物を齧りながら振り返って見ると確かにそんな張り紙がしてあった。
「みんな言っているよ。盗めるものなら盗んで欲しいもんだってね」
「え? 何で?」
ここまでの聞き込みでその女主人の良い噂は確かに聞かなかったが……。
「あそこの女主人、昔はそんなに評判悪くなかったんだけどねぇ。その石を手に入れた途端、人が変わったようになっちまったのさ。その石とやらに何を願ったんだか知らないが、あれで幸福と言えるのかねぇ」
「ふーん……ありがとう!」
唯は主人に手を振ってその館の方に足を向けた。
(ジンはそのお宝を狙ってるわけね。……別に、よくある類のお宝じゃない。そこまで難しそうなわけでもないのに……何で私はダメなわけ?)
また昨夜のことを思い出して頬を膨らませながら、唯は人ごみの中を進んで行くのだった。