第2章 happy jewel
「はぁ……」
唯は本日何度目かのため息をついた。
椅子に座り、宿屋の窓から喉かな昼下がりの街並みをひとり見下ろす。
……本当だったら、今頃ジンとキールと一緒にお宝目指して走り回っていたはずなのに。
そう思ったらまた気分が沈んできて、唯は再び重いため息を吐き出した。
この割と大きな都に到着したのは昨日、陽が沈む頃。
そして、唯のため息の原因はその後……。
夕食を終え、この部屋で旅の疲れを癒しているときに起こった。
「ねぇ、ジン。この都には何があるの? もう予告状は出したんでしょ?」
この都に到着してすぐにキールはどこかに飛んで行った。
今はジンの傍らでせっせと羽の手入れをしているが。
だから唯はいつものように何気なく、隣のベッドで横になっているジンに訊いた。
「ん? あぁ……今回はオレとキールで行ってくるから」
「へ?」
唯は目をぱちくりさせて疑問の声を上げる。
「唯はここで待機してて」
ジンは仰向けになって目を瞑ったまま言う。
「ど、どうして!?」
唯は戸惑って声を大にする。
ジンがこんなことを言うのは一緒に旅を始めてから初めてのことだ。
どんなに困難な場所でも同行を拒否したりはしなかったのに……!
「この都、買い物にも丁度いいだろ。唯、新しい服でも買ってオレに着て見せて」
そう言ってニコリとこちらを向いたジンに不覚にもドキリとしてしまう。
「オレも見たい見たーい!」
キールも目を輝かせて乗ってくる。
「え……あー、新しい服は確かに欲しいけど……って違う! ジン!」
再び見るが、ジンはすでに寝息を立ててしまっていた。
ジンは驚くほどに寝付きが早い。旅から旅を続けていて得た業だろう。
こうなったら身に危険が迫らない限り目を開けることは無い。
「キール! どういうことなの?」
「え? オレは何も聞いてないよ」
「~~っ」
結局、唯はもやもやした気持ちのまま眠ることになった。
当然すぐに眠れるわけはなかったが。
そして、朝起きたときにはもう、ふたりの姿は無かった。