第2章 happy jewel
そう、まるでダイヤモンドのように……。
「これが、本当の『幸福の石』さ」
「どういうこと?」
唯はジンの傍らに寄って訊く。
「外側は言わばトラップだな。本物はそれを砕かないと現れない。だが大抵は皆その外側にかけられた魔力にやられて砕こうなんて考え付かないのさ。だからこいつはまだ誰の願いも叶えていない」
言いながら大事そうにその小さな石を握るジン。
「……ジンは何を願うの?」
訊くと、ジンは唯を見て意味深に笑う。
「まだ内緒」
「?」
唯は首を傾げ、ふと意識のない女主人を見下ろした。
「……この人はどうなるの?」
自分も石の魔力にやられたひとりだ。……なんだか他人事に思えなかった。
「目が覚めたころには正気に戻ってるんじゃないか?」
「そう」
ほっと胸を撫で下ろす唯。
「――ところで。何でここにいたんだ? 唯」
ジンの少し低い声に唯はギクリとする。
恐る恐る見るとジンは少し怒ったような表情をしていた。
「だ、だって……っ。ジン、本当に私置いて行っちゃうんだもん!!」
情けない声で叫ぶ唯。
「だから追いかけてきた?」
「そうよ! それに、お宝にたどり着いたのは私の方のが先だったんだからね!!」
「まんまとトラップに引っ掛かってたのに?」
「うっ」
唯は言葉につまる。
「あ~唯のあの一撃は効いたなー」
「え!? 私ジンに何したの!?」
本気で焦っている唯を見て、ジンは笑う。
「嘘だよ。何もされてない。……ごめんな、置いてったりして。もうしない」
そう言ってジンは唯の頭をポンと叩く。
「う。うん……」
結局ほだされてしまう唯。
昼間のもやもやとした気持ちもきれいに消えていた。
だが。
「そっか。唯、寂しかったんだな?」
満面の笑みのジン。
「へ?」
「さっさと宿屋戻って、さっきの続き、しような」
「さっきのって? ……! し、しない!!」
またしても顔を真っ赤にして口元を押さえる唯と、それを見て面白がっているジンを上から見下ろして、キールは「ふぅ、やれやれ」と肩をすくめるのだった。